最終話 Shooting star

僕の唯一の癒しである星ノ華ちゃん電話が、途切れた。待てども、待てども来ず、ここ数日は睡眠時間が二時間程度。いつかくるはず、星ノ華ちゃんは約束を反故する人間じゃない。けが?病気?何もなければいい――それだけを願って、バイトでくたくたになっても路上ライブを続け、作曲活動を続けていた。帰郷も考えたが、両親にも星ノ華ちゃんにも、東京で成功すると大見得をきってしまったし、帰るわけにはいかない。

 しかし、現実は残酷だった。星ノ華ちゃんと最後に会話して三日が経ち、両親から電話が入って、絶望の崖の淵に立たされる。


 高屋煌也。僕の一歳上の親戚で、従兄で兄貴分。故郷のスーパースターが、凱旋帰郷したという一報が入った。



◇◆◇



 いつもの時間、いつもの場所で、星ノ華ちゃんを想いながらギターをかき鳴らす。違うのは、閑古鳥の数が少ないことだ。会社員と思しき男性女性、カップル、予備校帰りの青年たち。今日は、入りがいい。


「君、いい声だね」


 唐突だった。

 あまりの驚きに思考は停止する。

 だって、欲しかったコトバだったから。


「名前は?」

 黒のスーツを着こなすが、夜にもかかわらずサングラスをかけている。

 業界人、だろうか。

「た、高屋昴です……!」

「歳は」

「二十歳です」

「そう。当たり前か」

「へ?」

「こちらの話。いい歌い手を探していてね。実はもうすぐ、結婚するんだ。俺たちの式で歌ってくれないか」

「急に、僕なんかで……」

「君は、自分を卑下するミュージシャンか?とりあえず、招待状を渡しておくよ。良かったら見てくれ」


 人生は残酷である。歳が若ければなおのこと阻むものが多い。


「待っているよ」


 幸せにしたかった。僕の歌で元気になってほしくて。

 多分、前世でも、生まれ変わっても、星ノ華ちゃんを好きになり、同じことを思うだろう。それくらいの恋だった。


 スーツ男が視界から消えるのを待って、招待状をくしゃくしゃにする。

 だって――


「わたし、高屋さんの歌、好きです!」

「え?」

「私……引っ込み思案で、声とか掛けるの苦手だから、顔、憶えてないと思います。でも、いつも高屋さんの路上ライブ聴いています!第一ファンです!だから……」


「あ」


「あ?」

「いえ、なんでも……」


 幸せになってね、坂本星ノ華さん。

 今までありがとう、頑張って生きるから。


「聴いてください。“Shooting star”」


 あなたのいない日々が始まる。

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