回想 彗星に想いを

「あっ!」

 澄んだ夜の空気を、星ノ華ちゃんの綺麗な声音が横切った。そして盛大な溜息とふくれっ面。高校一年生の星ノ華ちゃんは時々、少し幼い挙動をする。

煌也兄ちゃんのゲンコツ覚悟で、二人で星を見に裏山へ来た。今夜はナントカ彗星が観測できる日で、他にもちらほら人がいる。煌也兄ちゃんが他県の高校に進学してから、星ノ華ちゃんの天真爛漫さが消え、気分転換にと誘ってみたのだ。

「どしたの、星ノ華ちゃん」

「流れ星みたいのがさ、通った気がしたんだ」

「彗星を見に来たんだよ?」

「彗星と流れ星って何が違うの?」

「知らないけど」

「学びたまえ、昴よ」

 僕の後頭部を軽くはたいて、くすくす笑う星ノ華ちゃんは絵になる。それでも、煌也兄ちゃんの隣にいた頃とは何かが違うのは明白だった。


 僕と煌也兄ちゃんは従兄だが、決して仲の良い親族ではない。優等生の鑑のような煌也兄ちゃんと、普通生徒の代表のような僕。ぶつかることはないが、正直、僕は、何でもできる煌也兄ちゃんに負い目を感じている。彼のようにうまく歩んでいけたなら、もっと別の形で高屋昴を形成できただろうから。


 違う僕で、坂本星ノ華ちゃんと出会えることができただろうから。


「昴。願い事する?」

「ああ、流れ星に?乙女だねえ」

「なによ、しないの?」

 したいよ。星ノ華ちゃんと一緒に歩く未来を。

「僕たち、彗星を見に来たんだよ」

「構わないよ。奇跡の天体ショーなんて、ロマンチック」

「じゃあ、星ノ華ちゃんは?」


 現実は残酷で、一縷の望みなんてこの闇では塵に過ぎない。


「……」


「星ノ華ちゃん、僕」

「あっ!すごいよ、昴!すごい、すごい!」


 遮られた言葉が、想いが、彗星に乗って、空を舞い。


「見た?すごいなー、願い事なんて忘れちゃったよ」


 星ノ華ちゃんの綺麗な頬に伝った、熱いであろう綺麗な雫を、見逃すことも指摘することも出来なくて。


「……そうだね」

「あ、なんか言いかけたよね。なに?」


 僕の想いも彗星に乗って


「早く、煌也兄ちゃんに会えるといいね」

「そうだね」


 燻ったまま、闇に隠れた。




 君は何を願ったの?

 頬を伝う流れ星

 気づかないフリをした

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