第2話
目的:国家煽動のきっかけとなったCIA局員を見つける。
状況:FBIの尋問を受けていたが、エスメラルダと話をしたいと申し出るシーン
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「取り調べに応じる事は約束する。ただ、そのイヤホンマイクだけは取り外してもらえるかな? 僕は君と話したい。マイクを通して君に指図する誰かの質問に答える気はない」
エスメラルダは背後のマジックミラーに目をやった。「外せ」という苛立ち混じりの声が耳に流れ込む。彼女は通信機を外すと、そっと机の上に置いた。
「
「テューダとの関係は? 今、彼女はどこにいる?」
「関係はナンパされた。彼女は、何を考えているのか掴めない。今、彼女はここにはいない」
「ふざけないで」
「本当の事さ。何も知らないし
「彼女とは取引を」
「何の?」
「その質問に答える前に。君は魂を信じる?」
エスメラルダは突拍子もない青年の言葉に混乱していた。彼女に繋がるヒントかもしれないが、ただ適当な事を言って反応を楽しんでいるようにも見える。
「信じる」
「根拠は?」
青年は笑顔で答えを待っている。取り調べを受けている人間の態度ではなかった。もっとも、エスメラルダはFBIの人間ではなく、取り調べる権限はない。(候補2:捜査のいろはを知らない彼女を指名して、取り調べに応じさせる事でミスリードを誘い、現場を混乱させる気なのかもしれない)
関係の無い話に上手く誘導されている気がするが、少し彼のペースに付き合う事にした。
「
「いい答えだね。僕も多くの人の死を看取ってきた。そういう気持ちがあれば少し救われた気になれる、残された側が」
「あなた、お医者さんらしいね。コロンビア大卒業後、あるNGO団体に参加。南米で難民の診療や教育を中心に( )年間活動していた」
「慈善活動よりも、里帰りの意味合いが強かった。派遣先が僕の故郷でね。故郷に恩返しを・・・・・・昔は、相当な悪さをしたもので」
エスメラルダは飄々と冗談を織り交ぜる、彼の態度に苛立ちが総毛立つ。( )。
「この質問に何か意味がある? 物の考えを尋ねるのは、相手の知的レベルを観察するためのテストか何か? 嫌みなジョークなんか聞きたくないんだけど」
「誤解だよ。そう思うのは、君の経歴じゃFBIに入局できない事を誰かから聞かされたからじゃないのかな」
形を成さない心のモヤモヤを、言語化されてしまう。否定したいが、ここでムキになれば認めてしまったようなものだ。
エスメラルダの奥歯に力が入る。彼女は一人のFBI職員マークの協力者にすぎなかった。皆、知的で背景に立派な学歴や資格がある。専門の教育を受けなければ入局はできないと聞いた。今のエスメラルダに専門教育を受ける資格はない。そのためには何年も難しい勉強を経なければならないが、テューダは目の前にいる。今じゃなければ駄目なのだ。だから、目の前の男から情報を引き出し、役に立つ事をアピールできなければならない。少しの間、親友を止めるまでのほんの一週間だけでも、FBI全体の信頼が欲しいのだ。
目の前にいる男はエリートで慈善活動にも参加していた、エスメラルダとの経歴・実績は雲泥の差。だが彼は今や容疑者だ。知的レベルの差に翻弄されて何もできなかったのでは、後ろで見物しているFBIの心証がより悪くなる。
「FBIに入局できなければ、君はテューダを追えない。魔法使いが危険視されている現状、銃の携帯許可は君には下りない。無理に銃に頼れば、いざ戦闘に入ると警察やFBIに背後から撃たれかねない。だから彼らの信用を得なければならない。安心しなよ、君は聡明だ。学歴コンプレックスを煽りたいわけじゃない、逆に言えば世間の常識に脳味噌を支配されているような輩じゃ話にならない話をするから」
エスメラルダは彼に何もかもを見抜かれているような気がして、気味が悪くなった。その気持ちに追い打ちをかけるように、取調室に奇妙な現象が起こった。突然、何かの鳴き声がしたのだ。
「クーン、クーン」
男は椅子から立ち上がり、何かを拾うような仕草で屈みこんだ。
エスメラルダは戦慄を覚え、思わず半歩後退した。彼女の足下で小さなダックスフンドが尻尾を振っていたからだ。
男がゆっくりとダックスフンドを抱き上げた。彼が犬を撫でる度に、その犬は青みを帯びた半透明のシルエットに変わる。
「彼の名前はドゥルフ。僕が五歳の時に亡くなった愛犬だ。でも、寂しくはない、今もこうして会えるんだから」
「あなたも・・・・・・魔法使い」
「僕の国では巫術と言われるけど、魔法でいいよ。能力は死者の霊を読んで、それを魔力で形作ってあげる。疑似的に体や臓器を提供できる、効果は一ヶ月。これのせいで仕事で亡くなった人を看取った時でも平常なんだ。よく、看護師に『もっと悲しそうな顔しろ』と言われたものだよ」
「取引の内容を聞きたがっていたね」
漸く本題に入る。ほんの僅かの間に、男の存在感がエスメラルダの中で膨張し続けている。( )
「テューダはある情報を求めてこの街へやって来たみたいだが、その情報を持った男は既に死んでいた。彼の痕跡から情報を割り出そうと努力したみたいだが、それも失敗に終わった。FBIすらチームを組んで科学捜査や関係者に聞き込みをしても、何も掴めなかったんだから個人では難しい」
FBIがチームを組んでまで痕跡を探った人物。( )。
そして、その誰かはこの世を去っていた。だから、この男との取引なのだ。犬の霊を呼び出して見せたのはそれが一番、相手に理解させるのに効果的だからだ。
「だから、僕だ。『彼』を降霊し、現世に呼び戻す。そして情報を聞き出すために」
「それは誰で、何の情報が目当てなの?」
男は深く椅子の背に体を預け、側で腕を組んで立っているエスメラルダの緑色の瞳を穴が空くほど観察していた。
「聞いてる? それは誰で・・・・・・」
「その瞳の色。僕の母親と同じ瞳の色だ」
エスメラルダは男の話があらぬ方向へ跳ぶ事に慣れ始めていた。黙って彼がその先を喋るのを待つ。
「その魔法は、他人を必要とする魔法だ。優しくある事が試される、自身を律する事が試される。器じゃなければとり殺されてしまう、十分注意するんだ」
「関係無いことベラベラ喋らないで」
「関係はある。これからその男と戦う事になるのなら、君は母と同じ末路を辿る事になるかもしれない。それではテューダに申し開きできないからな。降霊したのは迷宮入りの事件の首謀者( )。FBIも過去の類似の事件として今、捜査しているはずだ。
(よくやった、エスメラルダ。後は我々が引き受ける)
取り調べ室の天井に取り付けられたスピーカーからマイクの声が降ってきた。その背後でバタバタと数人が部屋を出る足音は、不揃いなリズムを刻む下手なバンドが奏でるBGMのようだった。
「待ってください!! まだ、全てを聞き出せたわけではありません!!」
「タイムオーバーみたいだね」
男は笑った。その笑い顔は爽やかで感じの良いものだった。最初の尋問で、街で起こっている連続殺人事件について黙秘を貫いていた。FBIは男が事件と関連があることを知りたがっている。男はその話題を口にする事で、エスメラルダとの時間を打ち切ったのだ、これ以上話す事は無いということだ。
その件についてはエスメラルダはほとんど知らない。これ以上は尋問のしようがないのだから。交代は当たり前の話だった。
「くっ・・・・・・!!」
(※そんな顔の描写)
「そんな顔しなくていい。君とはまた会う事になる、恐らく行動を共にする事になると思うが、その時に続きを話そう。連中には僕から君を捜査に引き入れるように上手く話をしておく」
まるで、FBIの指揮権を握っているかのような物言いだった。だが、得もいえぬ説得力があった。腹の底に二枚も三枚もワイルドカードを隠しもっていて、彼は筋書きを好きなタイミングで塗り替える事ができるような気がした。
「これは必要な過程だ。君と僕の理解を深めるための。過程を終えれば君も僕を求めるし、またFBIも危険人物同士の同行を認めざるを得なくなる。あと、忠告を忘れないように」
エスメラルダは(※ 何のことからわからない様子の描写)
「兆候はあるだろう? その手の感触」
彼女にとって、それは一番の驚愕だった。まるで心の中を見透かされているように、ごく自然と心のひだに触れられた気がした。この街へやって来て、初めて殺し合いの場に身を投げた時、マフィアを殴り飛ばした時の手の感触が長い間残っていた。敵の足を打ち抜いた瞬間もまた、太陽を睨んだ後、緑の点となって網膜に焼き付いたように離れなかった。
男は立ち上がり、エスメラルダの肩を叩いた。肩が飛び上がると同時に我に帰った。
「優しい人間が苦労する魔法だ」
男はマジックミラーに向かって、大声で喋りかけた。
「魔法の解き方はエスメラルダに教えておく。彼女にしか実行できない。本気で犠牲者を増やしたくないなら、エスメラルダを一時的にFBIに引き入れた方がいい。現職の職員ではどんな性能の武器を用意しても太刀打ちできない、核なら別だけどね」
FBIの職員が部屋に入ってくる。腕を掴まれながら男は部屋を出て行く。すれ違い様に男はエスメラルダにウインクを送った。
「敵は僕以上に、世の中を舐めきっている上に頭もキレる。十分注意するんだよ」
「待って!!」
エスメラルダが追いかけたいのは、連続殺人犯ではなく、テューダ・トライアングルだ。限定付きの自由は得たが、彼女について何も聞き出せていない。彼女は廊下に飛び出し、男の背中を追った。彼は振り向いて小さく笑った。
「テューダも彼を探してる」
学生ものを書いてもしっくり来ない。
先に、魔法や霊、拳銃など超常現象や血生臭いアクションを書いたので、生ぬるく感じたと考えたがそれは間違いだ。
普通の生活を通して、ドラマを生む作品を読んだが面白かった。
面白さの要素の一つに「人は多面体」である事を表現する必要がある。
初めは素朴、または今時の高校生、アニメのテンプレのような人格でも、その向こうには誰にでも共感できる”普遍性”が隠れていて、それに踏み込む事で、魅力を深堀していき、ストレスなくリズムよく文章にする必要がある。そのためにはドラマを用意しなければならない、「いじめ」などはポピュラーな題材だが、ネガティブな方向へ流れがち。他の要素が欲しい。
それができていたのかと言えばNOだ。
キャラクターや環境、背景をまるで深堀せず、思いつきで書いたからだと思う。
キャラクター文芸ものは社会人のお仕事ものが多いが、現代社会の仕事を掘り下げると、何か思い浮かぶかもしれない。ただ、取材や資料を見て全容を掴むのは必須の作業。
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エスメラルダ(エメル)の魔法の話は、一度書き上げてしまい、キャラクターをある程度掴んでいるので、動かしやすく、キャラクターだけではなく、他の要素にも目を向ける余裕があるので、謎を散りばめたり、装飾したり、情報をどのタイミングでどこまで出すかといったコントロールが取れやすい。良い脚本に仕上げるには、第一稿を書き上げた後、しばらく放置しておいて、あらためて読み、問題があると思った箇所を書き直し、それを三回は繰り返す。そうしたものがいいらしいが、理解できる気がする。
前回は、追い立てられるように書いたので余裕がなかった。
今回で、できるだけの事をして、この物語を終えてしまいたい。
続けるにしろ、諦めるにしろ、出来上がったものに自身が納得しなければ終わりがないのだと思う。
養父に促され、エスメラルダはサンフランシスコの街へとやってきた。
働き口(パン屋)も見つけ、海が近く眺めも気候も気に入った。だが、順風満帆な船出にはならなかった。従業員と接していてエスメラルダだけが感じる違和感。彼女が店に来る前から何らかの情報を得たものだと知る。そして、それは今も続いている。彼らは彼女の事を知っている。
銃を使う事、格闘技の訓練を積んでいる事、そして魔法が使える事。
彼女の親友が派手に事件を起こしたので、同じ能力を持っているエスメラルダの動きを牽制するように、彼ら彼女らの行動、言動はエスメラルダにそれとなく彼女の同行を知らせてくる。彼女はぎこちない笑いで愛想を作り、仕事に集中する。それが、生活に馴染むための精一杯の行動だった。楽しかったパンを作る作業が、ただ無心で時間を浪費するだけの「作業」になってしまった。エスメラルダは故郷を思った。ほとぼりが冷めれば家に帰れる、養父のいる家に。
サンフランシスコのアパートへ帰ると、顔がだるい。作り笑いは頬筋に負担がかかるようで、それをほぐすのが日課になりつつある、そして-。
エスメラルダは街の射撃場へと通い、銃を撃つ。
銃は好きじゃない、だけどそうはいっていられない。格闘技は我流だ。サンドバックに何度も何度も拳と足刀とを交互に叩き込む。サンドバッグ越しに向かいの窓を見ると、車が一台止まっている。車種も異なるし、中の人物も巧妙に変装しているが、それぞれが同一人物である事をエスメラルダは見抜いていた。二人一組、男と女。40を過ぎようかと思える男、エスメラルダと同じか、少し年長の女。
女の方は、特殊メイクで巧妙に顔を変えているものの、歩き方や身振り手振りに微妙にクセがあり、呼吸の特徴も捕らえていた。(エスメラルダは魔法で物の動きをスローに捕らえる事ができるが、物を精緻に捕らえるための脳の処理能力も上がる。目を閉じていても、魔法を使えば彼女にとっての二分ほどの思考時間が現実の二、三秒と同等になり、他人から見ると瞬間的に判断しているように見える。欠点は、悩む時間が増えて他人に対する疑念が深まるほど、暗い性格になっていく。)
何度かあえて接触し、声をかけた事があるが自然に別人に振る舞う演技力はあった。訓練したのだろう、だが細かく物事を尋ね、倫理でゆさぶると彼女自身のパーソナリティが顔を出す。答えに窮すると、上目になって瞬きの回数が増える。
交代でエスメラルダを見張っている。そういう事なのだ、誰かが彼女を包囲している、問題を起こさぬように。職場の彼らもあの二人に協力しているに違いない。
そして、運命の日がやってきた。
ニュースで桃色の煙がFBIの職員を殺害した事を知る。
動かなくてはならない。どこの州でも「彼女」の情報を得れば飛んでいくつもりだった。それが同じ街にいたなんて。
できるだけの準備はした。後は「彼女」を止めにでかけるだけだった。
数日後、エスメラルダはログハウス風のカフェの中で、アールグレイを飲みながら、激しく雨に打たれるガラス窓を見つめていた。濡れたガラス窓越しに、一台の車がぼやけて見えた。見張りに使われる車種は把握していた。彼女は見張りの「彼」と接触をはかる事を決心した。
(動機)FBIや警察の信用を得られなければ、拳銃使用の際に彼らに攻撃する正当性を与えてしまい、狙撃されかねないので、武器使用と捜査権限を得るためには彼らの信用を得なければならない。
(第一話へ)
シルヴィアは顎の下に手をかけ、皮膚を引きはがした。皮膚が荒れ、染みやそばかす、無数に刻まれた皺が印象的な四十代後半の中年顔の下に隠れていた素顔を晒した。皺一つない白い美肌に切れ長の目、高い鼻、厚い魅惑的な赤い唇が現れる。口の端にある小さなほくろが顔の調和に色を添える。モデルや女優だと名乗っても否定できない綺麗な顔だった。しかし、エスメラルダはまるで動じなかった、彼女の正体には気づいていたからだ。
エスメラルダ(エメル)「帰った方がいい」
シルヴィア「あなたに指図されたくないんだけど。
エスメラルダ「変装名人のシルヴィアさんね。以前から私を尾行していた人。マークさんからあなたを無事に連れ戻すように言われてる」
「感情が高ぶっているだけ、話せば分かる。きちんとした会話をすれば他人を傷つけるような子じゃない・・・・・・」
シルヴィアは失望の眼差しをエスメラルダに向けていた。FBIの仲間が何人もテューダの手にかけられているのだ、当然の反応だとエスメラルダは受け入れ、構わず話を続けた。
「親友なんだ。私がテューダの目を覚まさせる。今は命の危険を感じて過敏になっているだけだから。大丈夫、私なら彼女を止めて話し合いに持ち込む事が・・・・・・」
シルヴィアはテーブルに拳を思い切り叩きつけた。感情の乗った激しい音が部屋に響き、エスメラルダの話を遮った。
「殺人鬼に話し合い? あんたが馬鹿なのか、私が馬鹿にされてるのか・・・・・・どっちでもい。私はFBIで、私はFBIの仕事の真っ最中なの。殺人鬼から街の人々を護る義務がある。アンタが帰りなよ」
シルヴィアは怒りの形相でエスメラルダを睨みつける。過剰にテューダを恐れる人間とは違い、彼女からはテューダに対する殺意のようなものが滲み出していた。理由はいくらでも想像はできた、正義感がある、殺された同胞のため、その中に特別親しい人間がいたか。例えば、恋人や恩師・・・・・・。例え何であったにしても。
シルヴィア「やっぱり、監視対象者は危険視されるそれなりの理由があるようね」
エスメラルダはシルヴィアに銃を向けて構えていた。内に秘めた感情が何であれ、力比べで魔法を使うテューダには勝てない。冷静さを欠いた人間が何かの策を持っているとも思えない、ここでシルヴィアを止めるために望まぬ暴力で牽制する。効果はあった。危険視する人間が銃の引き金に手をかける事が相手にとって脅威にならないはずがない。彼女の顔が緊張でひきつった、それでもまだ気は衰えてはいない。
「マークさんから、あなたを連れ戻すように言われてる」
「傷だらけにして? 私に何かするとFBIへの心証はガタ落ちになる事を忠告しておくわ。怪我なんかさせたら、アンタを一方的に悪いように局内にいいふらす」
今度はエスメラルダが動揺する番だった。危険視されている人間が何を言った所でFBI所属のシルヴィアの言い分を信じるに決まっている。そうなれば、テューダを止めるどころか仲介役が目的のエスメラルダまでが、武器を持って追い回される事になる。
この駆け引きはエスメラルダにとって分が悪かった。シルヴィアは勝者の笑みを浮かべ、テューダが去った開け放たれたドアへと足を向ける。
エスメラルダは銃を下ろし、シルヴィアめがけて突進した。捕まえればいい。無傷で彼女を捕らえて無理矢理連れ戻す、そのつもりだった。しかし、一歩踏み出した瞬間、目的が変わった。
エスメラルダに見える世界の流れが緩やかになり始めた。自身が望んだわけではなく、危険を感じて体が勝手に反応したものだと思った。視界の端から鉛玉が一発、回転しながらシルヴィアの側頭部に向かって飛んできていた。エスメラルダは走った、動きが、音が、穏やかにながれる戦場の中を。
胸が張り裂けそうだった。動きを感知できても自身も遅い。行動を誤れば即死。常に決断、判断に完璧さが求められ、この緊張感がたまらなく嫌で仕方がなかった。弾より早くシルヴィアにたどりつき、彼女を突き飛ばした。そこで、目に映る風景が急速に流れ始める、魔法が解けたのだった。
エスメラルダは肩を押さえて物陰に隠れた。そのすぐ後を二、三発の弾丸が床を抉って跳ねた。すぐ後ろでシルヴィアがうつむせに倒れていた。彼女は起き上がり、エスメラルダを振り返った。悔恨と、動揺に表情が震えていた。エスメラルダの肩から流れる血がボタボタとセメントの通路上に滴り落ちている。
「そんな顔やめて。大した傷じゃないのに、大怪我した気になるから」
エスメラルダは気丈に振る舞ったが、思ったよりもダメージは大きい。残ったマフィアが駆けつけてきたらしい。シルヴィアよりもまずは敵を捌き安全を確保せねばならない。
「ごめん」
エスメラルダの耳を小さく打った声の主は振り返るとそこにいなかった。彼女の背後に延びる通路の先、闇の中を駆けるシルヴィアの足音が遠ざかっていく。弾丸の到来を告げる破裂音が先ほど二人で駆け引きをしていた部屋の中で暴れ回っている。
エスメラルダは肩口から手を離し、ゆっくりと死の臭いがする部屋の中へと戻っていった。
銃声が二発鳴り。その後静寂が訪れた。
(セリフ 分割してまとめる)
僕の国(※)では王族だけに伝わる秘術があった。
元々、この土地に住まう先祖が用いていた術で、世間ではシャーマニズムと呼ばれている。西洋諸国からやってきた探検家達がやってきて、先祖は奴隷にされた。そして彼らは絶滅した、それは探検家の仕業ではなく、彼らが運んできた病原体によるものだった。西洋の人間には抗体があったけど、僕らの先祖には無かった、まぁ間接的には探検家の仕業ということになるね。
その技術だけを代々、王族が受け継いでいる。僕は第三王子で後継者候補に入っていたけど参加する気はなかった。
犬を可愛がっていて、彼は死んだけど寂しくはなかった。巫術(ネクロマンシー)で霊魂をいつでも呼び出す事ができる。骨の一部があれば見た目には肉を纏った彼が現れる。だが、永遠ではなかった。骨が朽ちて粉に変わった時、彼は二度と現れなくなった。僕は泣いた。
それからしばらくして、CIAの職員が屋敷にやってくる事が増えた。王族の後継者に関する事で話合いを連日行っていた。僕はハトの霊を使って探りを入れたが、真っ先に僕を候補者から外す事は決まっていた。胸をなで下ろした。希望通りだったので。
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CIAは初めからこの国を陥落させ、独裁制から、民主制へと移行すべくクーデターを画策していた。それがうまくいき、僕の国は地図から姿を消した。帰る故郷(くに)を失った。名を変え、経歴も詐称し米国に亡命する事に成功した。製薬会社で真面目に働いていたよ。資格も持っているし、問題はなかった。しかし、自国で当たり前に使用していた薬がまずかったらしい。鎮痛剤だが、精神に問題が起こるという事で告訴された、ライバル会社がね。産業スパイが新薬だと間違えて僕のロッカーから資料を盗みだして、勝手に流通させたからだ。そこでFBIが僕の正体に気づいた。薬の捜査線上に僕の名前が上がったらしい。詐称がバレて国外追放になったけど、故郷(くに)がない。あっという間に流民だよ。流石に頭に来たね。色々と怒りがわいてきたけれど、元をたどると国を売ったCIAの男の顔が浮かんだ。僕は再び米国へと戻った。術を使えば簡単だった。
故郷を奪ったCIAのあいつに復讐するためだった。彼の故郷を調べ上げ、先回りし、巫術で滅ぼそうと考えた。帰る所がなくなった人間の気持ちを教えてやろうとほくそ笑みながら。
訪れてみると、ある三人組に出会った。エスメラルダとテューダとネイサンの三人だった。彼女らは問題を抱えていて、僕ならそれを解決することができると考えた。そして、特別な力も与えようと。何故、そうしようと考えたのかというと、単に彼女らが良い人だと思ったからだ。
※ 存在しない国でフィクション。名前は後で決める。
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(敵のプロローグ)
初めは理不尽だとは思わなかった。
全てが僕の意のままに事が運んでいる、そう思っていた。
だが、理不尽は制御不能なものだということを僕は理解していなかった。それはある日、僕にも牙を向き、故郷を失った。それでもまだ、先がある、そこで希望をつかんだが、容赦なく彼らは再び僕から希望を奪った。
復讐を決意し、歩みを止めるつもりも無かったが、そこである三人組に出会う。彼らは僕の決意を揺るがせた。そこで失敗を犯す。
彼らのためにやった事が、彼らを苦しめる事になり、それは僕を苦しめた不審に彼らを落とす事になってしまった。
ごめんなさい、エスメラルダ
ごめんなさい、テューダ
そして、先に逝ったネイサンにも
彼らに会わせる顔はないけれど、歩みを止めるわけには行かないのです
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二部目の初めに持ってくる。
「敵」はエスメラルダと対峙する。
彼女は「敵」の事をよく覚えている。
「敵」はテューダが探している鍵だ。
テューダは魔法の呪いを解く方法を聞き出そうとする。
テューダの計画に手をかす事を決める「敵」。
「敵」は復讐のためにCIAの男に接触するが、彼はエスメラルダの父親だった。敬意を持った友に対してまた一つの罪を重ねた彼は、最期の戦いへと向かう。FBIをはじめ、米国に攻撃されているもう一人の友、テューダを逃がさなくてはならない。「敵」は巫術(ネクロマンシー)を使って、FBIに戦いを挑む。最期はエスメラルダに息の根を止められる事を願いながら。
「敵」はエスメラルダに自分を憎み、殺害の心理的負担を軽減させようと憎まれ役を演じるが、全てを見抜かれる。テューダの名前を出し、エスメラルダを動揺させながら、本気で彼女とぶつかる。「敵」は死亡するが、最期に彼女が顔を崩して泣いているのを見て、罪悪感にさいなまれ果てる。勝っても、負けてもそこにカタルシスはなく、修羅の道に救いはない。「敵」は二人をその道に引きずり込んでしまった事を後悔したのだった。
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ラスト
エメルは暴力の中へと身を投じる。思ったよりも深く、暗い暗い海の底で仕事をこなす彼女は「世界の裏側」を眺めている。彼女の歪な形をした、焼け残った墨のような思い出は今も彼女とともにある。これを手放す時が、かつての「親友」だった女性との別れの時。
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