第11話 幕間: 人生を空虚だと思った少女の話

『意志を持って初めて、プレーヤーはプレーヤー足りうる』

「え?」

『しかし、意志を持たない人間はいないし、そもそも意志というのは遺伝や環境によって決まる非常に流動的なもの。昔、私にそう言った人間がいた』


 まるで自分は人間とは別種だというような語り口。

 祖母宅の物置を整理していて見つけた人形。長い間扉は開かれていなかったはずなのに、そこには真新しいぬいぐるみが置いてあった。シンバルを両手に持つサル。クラシカルで誰もがすぐにイメージできて、それでいて滅多に現物を見ることがないようなそんな類のぬいぐるみ。

 雑然と物が散乱している中、じっと扉を見つめるようにして直立していた。よく上を見上げる子供の目線からは、それはとても目立った。

 中途半端にリアルで、気持ち悪い。だからこそ気になって、目を離すことができなかった。

 大人たちが埃っぽくてかなわない、ととっとと退散したのに、そこに残って見つめ続けていたのは、なにか確信めいた予感があったからなのかもしれない。

 だから、それが喋り始めても、そう驚きはしなかった。

 瞳の中で点が線となり、像を結ぶ。

 瞬きもせずに見つめる。

 テレビでもぬいぐるみや動物は喋っていた。現実で喋ってもそんなにおかしいことじゃない。

 それが彼女が下した結論であり、リアルだった。


「おサルさんは、悪魔なの? カミサマぽくないよ」

『悪魔と神に差があると思っている。それはなぜ?』


 どうやら悪魔ではないらしい。


「ふうん。じゃあ、カミサマなんだね。カミサマが言っていることはむずかしくてよく分かんないや」

『難しいから分からない。子供だから分からない。思考停止した者はプレーヤー足り得ない』


 淡々とまるで読み上げるように告げられる。

 彼女はプレーヤーが何を意味するのかを知らなかった。


「プレーヤーってなあに?」

『意志を持つ者のこと』


 最初に戻ってしまった。


「どうやったらそれになれるの?」


 もしそれになったら、どんな願いでも叶うのだろうか。

 自分の願い。それはなんだろう。

 そんな想いとともに、精一杯見上げて問いかける。


『君の場合。自分の立場が異端だと理解することだ。周りを利用することだ。そして、修羅の道を行くことだ』


 言い回しがむずかしすぎて、完璧に理解ができない。

 それでも、なんだか大変なのだということは理解ができた。


「なったら、ランプの精みたいに、さくらの願いを叶えてくれる?」

『そレはしない。しかし、ゲームに参加する資格を与えよう』


 そんなものいらないのに。

 悪いカミサマなのかな、彼女は思った。

 それでも、彼女は頷いた。

 葛切かのが高校二年生であるのを現在とするならば。

 これは今から、十年も前の、とある一コマ。

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