血の意味(7)
クリスティンの表情に安堵の色が広がるのを副官のイムニ・ブランコートは歓迎する。市民の抗議活動に頭を悩ませていた司令官は、最近眉根に縦皺を刻んでいることが多かったからである。
王子の演説で、革新派の運動が急速に縮小しつつあるのならゼムナ軍も動きやすくなるというものだ。
(剣王め。イメージアップに汲々としているのは構わないが、いい顔をして自分の首を絞めていると分からないとは愚かなことだな)
彼にはそう思えてしまう。
「これでクリスティン様を悩ませる者は剣王だけになりました」
声音も軽い。
「後背に回り込んでの強襲でも批判を気にする必要はございません。元々戦術としては真っ当なものなのですから」
「ああ、兵員の休息にも当てられたしね」
軌道周回中に兵員に交代休暇を与えている。市民からの反発で満足な上陸休暇を与えられなかった者もいくぶんか英気を養ったはずだ。
「それで安心というわけではないが」
上官は懸念を口にする。
「どうしてでありましょう? 我らが戦えずにいたのは革新派市民の抗議に耳を傾けられたクリスティン様のご高配あってのこと。そちらが解消されれば懸念材料は少ないと思いますけど」
「戦闘に持ち込めば全て解消されるんじゃないだろう? 私はリューンの新型機『ゼビアル』に敗退している。絶対に負けるわけにはいかない以上、対策を講じねばならん」
「あれは意表を突かれただけかと?」
クリスティンはそう考えてはいないようだ。何かを秘めた面持ちでイムニへと視線を向けてきた。
「
「お待ちください!」
イムニは驚嘆する。
「確かにエクセリオンは装備できる機構を有しております。ですが制御にはパイロットに過大な負担がかかる兵器。そうまで無理をなさる必要は……」
「勝利には相応の覚悟を必要とする。それは彼の様子を見ていれば分かるだろう?」
「ただ感情任せに暴れているではありませんか?」
リューンの咆哮を野蛮な威圧としか感じられない。
「彼は自身の存在そのものを懸けて挑んでくる。対するには、こちらも全力で応じなければならない」
「そこまで」
彼の覚悟に返す言葉を失う。
「大戦中に開発された兵器で実用レベルではあります」
焦りに声が裏返りそうになる。
「身体にかかる負荷で悪影響が出た試しはないと聞いています。ですが実戦でご使用されたことはないのではありませんか?」
「ないね。でも訓練はしているよ」
「大戦後はほとんど使用事例がありませんし、本来は複座機で使用されたのではありませんか」
パネルに表示された情報に目を通しつつ告げる。
記録では、大戦後期にディオン・ライナックが発案、基礎設計に参加しているとある。
使用者はリシェール・ライナック。ディオンの実妹である。彼女の親友であり、のちにディオンの妻となるマイヤ・ピレリ―の複座専用機『ディアラン』に搭載されていた。
ディアランに装備された
この方式によりディアランは比類なき攻撃力を有し、極めて高い戦闘力で敵を圧倒したとされる。
「当時でさえリシェール様が専属で制御していたから機能していた兵器です。エクセリオンは複座機ではありません。閣下お一人で機体の操縦とレギュームの制御までなさらないとならないのですよ?」
できれば考え直してほしい。
「その記録なら私も何度も目を通した。元はマイヤ様の機体を強化しようと発案されたらしい。当時からディアン様はマイヤ様を憎からず想っていらして、戦場へと向かう彼女を死なせたくなくて開発に携わったそうだ」
「結果として、ゼムナ軍でも一二を争う最強の機体が完成したようですけど」
「確かに複座機だからレギュームの制御は十分だっただろう。リシェール様にも適していて、複数の編隊相手でもものともしなかったと聞いている」
妙な流れに首を傾げる。
「それほど完璧に機能する必要はないのだ。相手はゼビアル一機。ブレード兵装の間合いに入ってくるリューンを死角から牽制できるだけでいい。それで彼はエクセリオンだけに集中できなくなる」
「なるほど。そういう意図での使用なら、一度に何機もの敵を狙うような繊細な制御は不要ですね。負担も最小限で済むはずです」
クリスティンでさえリューンをブレード兵装の間合いで自由にさせると対応は困難だと考えているようだ。無論、イムニも援護に回るが、常にクリスティンの思惑通りに動けるわけではない。しかし、感応制御兵器ならば意思は一つしか働いていないので連携は完璧といえよう。
「勝てますね、クリスティン様」
今度こそ煮え湯を飲ませてやれそうだ。
「油断は禁物。だが、準備は万端じゃないか?」
「ええ、アルミナ軍も前進していると聞いています。挟撃に持ち込めます。そのうえで剣王を平らげれば」
「勝負は決する。レギュームはあの機能がある。如何な彼でも躱せはしない」
イムニは
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