血の意味(2)

 アルミナ王国内の二極化は進行している。


 一方は現状を王制府の施政の結果として批判するグループ。軽くはネットを通じてそれぞれの考えを訴えるものから、重くは集団を結成してでも活動を行うものまで。

 露わになったゼフォーン国民の境遇に一様に同情し、王制府は暴発した彼らに歩み寄り、関係を正常化する必要があるとしている。


 他方は旧来の姿勢を順守すべきだと考えるグループ。どんな理由があれど武力侵攻などという手段は肯定できず、徹底抗戦を主張している。

 ゼフォーン国民の意識は統制によっても矯正されておらず、その結果が現状を招いていると主張している。彼らはゼムナの遺志の存在まで僭称するゼフォーンを許すまじと声高に叫ぶ。


 より活動的なのは前者であり、王都であるウルリッカでさえデモが行われている。一見過激に見えるようだが、結局は戦争の終結を望んでいる。そういう意味では平和的といえよう。

 後者は王制府や軍の活動を支持するとともに、それにより平和が守られてきたとする。反王制府グループの主張を批判し、時には集団を形成してデモを妨害する行動が見られた。


 当然、両者に属しない市民も存在し、どちらかといえば多数派だった。経済の悪化に耐えつつも情勢を静観しようという人々だ。

 ただ、店頭やネットカタログから欠品が目立ち始めると彼らも座視してはいられない。そのままでは生活にまで影響があると考えた者は、外資系企業同様に一時的避難に国外脱出を試みる。政情に不安があるなら当然の行動である。


 ところが宇宙ポートには王国警察が待ち構えていた。国外脱出が急増した場合、他国や国際企業の更なる不安感を煽り、一気に経済破綻へと向かう可能性がある。それを危惧した王制府は布告により国外脱出を阻止に出た。

 経済活動の伴わない市民の移動を禁じ、拘束とまではいかないまでも渡航許可証を没収して放逐する。それにより市民の反発は強まった。


 更に事態は悪化する。

 渡航禁止の網を搔い潜って取り締まりの甘い地方などから国外脱出する者もいる。その中の一部に渡航先で入国を拒否され、強制送還された者が出たのだ。

 もちろん、それには過去の度重なる犯罪歴などの正当な理由があった。しかし、彼らは自らの瑕疵を認めず、協定者に敵視されたアルミナ王制府の所為で強制送還されたとうそぶいた。

 結果として「他国はアルミナ国民の避難を受け入れて、協定者リューン・ライナックの反感を買うのを怖れている」という根も葉もない噂が流布されることとなる。ごく少数の嘘がネットを駆け回り市民を震撼させた。アルミナは孤立しつつあると誤解したのである。


 世論の変化が敵視を生む。反王制府グループは市民の反感を助長する言論を展開し、それに煽動された者が次々と運動へと参加していく。自らを守るためには現王権を打倒するしかないという切迫感からだ。

 活動は過激化し、それに呼応するように保守派も強い反撃に出る。抗争は地方までも一気に拡散されていった。


 今やアルミナ王国は混乱の坩堝るつぼにある。


   ◇      ◇      ◇


「派手におっ始めちまったな」

 リューンの感想にダイナは微妙な反応しかできない。


 艦橋ブリッジの2D投映メインパネルにはローカル放送のニュース映像を流している。各地の様子を拾い集めてトップニュースとして扱っており、中には暴動に近い状態の映像も散見された。

 王制府の施政方針変更を求め、王国警察と衝突する革新派。そちらはまだ良い。流血沙汰は比較的少ない。問題は保守派との衝突。こちらは負傷者が発生することが多く、警察も両者の鎮圧に動いていた。


「これはちょっと刺激が強過ぎたみたいですよ、女史」

 彼女のカミングアウトが主因となっている。

「事実なんだけれど駄目だったかしら?」

「いや、駄目とは言いませんけど……」


 言葉を濁したのには訳がある。司令官としては敵国民がどんな騒ぎを起こそうが利することはあっても損はない。ただ、同じ映像を目にしている王子エムストリへの配慮からだ。


「予想外とは言わないわ。でも、彼らの将来は彼らが決めるべきであって、現実を知るのが悪いことではないのではなくて?」

 或る程度は予想範囲内の出来事らしい。

「そりゃ、俺の立場でいえば戦局として優位に傾ける助けにはなりますよ」

「素直になれよ。もっとやれって言え」

「別に綺麗事を言ってるんじゃないさ」

 リューンに煽られるも反論する。

「これなんて全くいただけない」


 映像には極端な例としてXFiゼフィに協力して王家打倒を訴える青年の姿が映っていた。赤く染まった包帯を体のあちこちに巻きながら、両手を振り上げて檄を飛ばしている。それを指差し顔を顰める。


「これは我らの解放運動なんだ。彼らが血を流す意味なんてない」

 拳を握って主張する。

「確かに有利には働いている。ここまで戦闘もなく進撃できているのはこの状況のお陰だ。アルミナ軍やゼムナ軍が戦線を構築しようとしても妨害されている。市民に手を出せない彼らは戦線を下げざるを得ないでいる」

「でなければ、もっと早い段階で対峙していたでしょうね」

「下手したら包囲戦を仕掛けられていたかもしれないくらい物量差はある。だからって市民に痛みを負わせてまで楽したいなんてこれっぽっちも思ってない」


 ダイナは額を押さえて苦悩を吐息に変えて表した。

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