戦気眼VS戦気眼(5)

「やってくれんじゃねえか」

 放たれたビームを斬り裂き、クリスティンと結んだリューンは舌打ちとともに苦情を投げ付ける。

「迷いもあったんだよ。どうしても確かめずにはいられなかった」

「ああん? ふざけてんじゃねえぞ」

「真剣さ。確認できたから君とも正面から向き合える」


 リューンがイムニと戦闘中、クリスティンは何もしていなかったわけではない。彼から放たれる戦気に少年は反応し続けていた。ずっと推し量られていたのだ。

 知覚できるのだから反射的に躱そうとする。その動きが遅滞を生み、イムニがリューンを侮る材料の一つにもなっている。


「君は分からないことだらけなんだよ」

 意図的だろう。斬撃は緩めで、それにリューンも合わせている。

「信じられねえのか、信じたくねえのか、どっちだ?」

「いや、君のことはもう認める。分からないのは別の件さ」

「筋道立てねえと落ち着かないタイプかよ」

 几帳面さを見せてくるクリスティンに辟易する。

「思っているより事は重大なんだ。君の存在の意味は重い」

「分かってるって。だから今まで秘密にしてきたんだろうが」

「その辺もよく分からないんだが、順を追って聞きたい」


 ブレードを合わせながら混戦の中の開けた場所へと緩やかに移動。リューンに付き合う義理はないが、一対一なら簡単に勝負がつくとは思っていない。勝率を上げるには動揺を誘う必要がある。ここに全てを賭ける気は毛頭ない。


「色々と検証した。確かにアーネスト伯父は君の言った通り亡くなっているようだ。バレル氏夫妻も亡くなっているし、その原因には不審な点しか感じない」

 神妙な声音で伝えてくる。

「嘘吐いたって仕方ねえからな」

「ならばどうして告発しない? 名乗り出て告発すれば大きな問題になったはずだ。少し調べただけでも十分といえる材料が見つかったんだが?」

「死にたくねえからに決まってんだろうが」

 つい言葉に険がこもる。

「そこだ。そもそもなぜアーネスト伯父が殺されたと思ったんだい?」

「分からねえのか?」


 リューンは呆れる。彼からすれば能天気に過ぎるとしか思えない。どんな育ち方をすれば絡繰りを理解できないのかが信じられない思いだ。


「邪魔だからだろうが」

 明確に告げる。

「邪魔? 大伯父上リロイ様は、分別の無い行動をした伯父上に憤りは感じられていただろう。でも、命を奪うほどではなかったと思う」

「てめぇ……。とんでもねえ勘違いをしてやがんぞ?」

 少年は気力が抜け落ちるほどに呆れる。

「親父を殺したのはライナック本家の奴らじゃねえはずだ」

「だが、私たちに殺されたと糾弾したじゃないか」

「本家じゃねえっつってんだ。家名だけもらった連中もそれなりの権力があんだろ?」


 傍流に当たるライナックを持ち出す。確かに本家ほどの発言力も権力も握ってはいないだろうが、相手が他国でも働き掛ける力くらいは十分にあるだろう。


「は? 彼らがどうして伯父上を狙ったと?」

 疑問ばかりの相手に溜息が出る。

「奴らにすりゃあ、本家の人間は少なけりゃ少ないほどいいに決まってる」

「本家の後ろ盾無くば、その地位も保証されないのにかい?」

「居ねえと困る。が、多いのも厄介なんだって。自分らの権益を妨げられるのは本家の人間だけだろうが。本家のひと声でどんな企みもぶっ壊れるんだ。数が多けりゃ邪魔で仕方ねえ」

 目が多ければ発覚する確率も上がる。

「そんな理由で……」

「減らしてえんだよ。でもな、ゼムナに居る本家においそれと手は出せねえ。そんなん家ごと潰されるに決まってる。あの枠組みにいるうちは安全ってこった」

「では……、そこから外れた伯父上は……?」

 単純な話だ。

「こんな都合のいい話はねえ。喜んで消しにきた。それも本家に知られねえよう事故に見せ掛けてな」

「じゃあ、君も命を狙われていたんじゃないのか?」

「ああ、数え切れねえほどよ」


 息を飲む気配がする。彼にとってそこまで思いがけない事実だったのだろう。


「消しちまいてえのはもちろん、連中は俺の存在が発覚するのも面白くねえ。誰かが担ぎ出して権益を独占する可能性も捨て切れねえからな。死んでもらうに限る」

 心情は理解できなくとも理屈だけは分かる。

「だから事情を知るバレルの親父やお袋も消したかった」

「なんという権力への妄執」

「それを植え付けたのもてめぇらの罪じゃねえか。他人事だと思ってんじゃねえぞ」

 本家に恨みが無いわけではない。

「……理由は理解した。じゃあ、なぜ君はゼフォーンに与している。恨んでいるのはアルミナではなくゼムナだろう?」

「成り行きだ。身を守るにも力がいる。連中もいいかげん形振なりふり構わなくなっちまってきたからな。それに喧嘩を売られた以上はアルミナ相手だって買ってやる。ゼムナに落とし前を付けさせる前にな」

「驚くべき豪胆さだな。他にやりようもあるだろうに」


 声音に落ち着きが感じられるようになる。疑問が解消されただけではなさそうに思えてならない。


「君はもう少し考えて行動したほうがいい」

「偉そうに言いやがる」

「事実だ。私とてただ漫然と話していたわけではない。君から時間を奪えばそれだけ我が軍が優位になるからだ」

 既に混戦宙域から抜け出してきている。

「見るといい。ゼムナ軍が誇る狙撃部隊の威力……、は?」

「抜かしてんじゃねえぞぉ。てめぇを引きつけときゃ何とかなるって考えるのはこっちだって一緒ってこった」


 狙撃型のアームドスキン、フェルデランの部隊は機能していない。ゼフォーン解放軍XFiの新たに編成した狙撃隊が側横から砲撃戦を仕掛けて半壊させている。逆に狙撃を受けるとは思っていなかったのだろう。


 狙撃部隊を封じられたゼムナ・アルミナ連合軍は劣勢に陥っていた。

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