戦気眼VS戦気眼(6)
長い砲身を持つ狙撃用ビームカノンで動き回る黄緑の機体を追う。相手は既にフランチェスカの存在に気付いて意識的に静止しないようにしている。反撃してくる余裕はない。アルタミラとミントの攻撃から逃れるので手一杯だろう。
新しい狙撃用カノンを渡された時は不安を感じたし、もう取り回しに慣れたとは言わない。それでも長砲身は感覚的に照準をつけるのに楽なのだと分かった。もともと両手持ちが得意ではなかったので、右手に持たせて左手を添えるのにも苦労しない。
放たれるビームの収束度は桁違いで、径は細くとも弾速は幾分速い。それでいてカノンインターバルは普段使うビームカノンと同じ一秒で、じりじりと待つ感覚もない。
(工作機をフル稼働させたとはいえ、これを二日で狙撃隊や各艦の狙撃手に行き渡らせたってことは、女史の頭の中では組み上がっていたってことよね)
エルシが示したゼムナ軍の狙撃型アームドスキン、フェルデランの対策がこれだ。狙撃専用のセンサー類も装備されているだろうが、武器で劣らなければ対抗できる技量はあると踏んだのだろう。
(で、女史が思った通り、フェルデランの部隊は封じ込められてる。それどころか意表を突かれて中破した機体も続出したみたい。まさか同じかそれ以上の距離から狙撃されるとは思ってなかったんでしょうね)
冷却機構が砲身を覆うビームカノンを見ながらそう思う。
「しつこい! どけ!」
イムニと名乗った副官が吠えている。
「つれないじゃないのさ。可愛い女の子二人に囲まれて逃げるのかい?」
「女の子?」
「そこ! 引っ掛かるんじゃないよ!」
ミントの疑問符にアルタミラが突っ込む。
「あはは、ごめんごめん」
「ふざけるなぁっ! お前らなど!」
「振り払えるものならやってみるといいさね」
(それでも、仲間はやらせない)
細いビームは隙間を狙いやすい。物理的にはそう変わらないのだが、心理的に楽にさせてくれるのだ。
(捉えてみせる)
アルタミラ機の股を抜いてオルドバンの左脚首から先を吹き飛ばした。
「くおおっ!」
「ナイス! チェスカ!」
「墜ちろー!」
二人の猛攻が始まる。
「気にしなくていい。集中して」
「ありがと、ペルセ」
周囲を警戒してくれているペルセイエンのお陰でもある。
「まだぁ!」
「無理だ。一度退くぞ、イムニ」
「なぜですか、クリスティン様!」
(水色が来た!? まさかリューンの馬鹿……)
ドキリとして視線を向けると、間に位置するように飛ぶ銀色の機体も見える。損傷している様子はない。
(びっくりさせるな、もう!)
半ば冗談で一撃見舞ってやろうかと思う。
「見ろ。フェルデラン隊が厳しい。その所為で他の部隊も劣勢に陥っている。戻って立て直しだ」
既に戦意はないようだ。
「君もその機体で反撃は難しいだろう?」
「……すみません」
牽制しつつオルドバンも離れていく。
離脱する連合軍アームドスキンに対し、
「ご苦労だった、皆」
当の本人もやってきた。
「追わなくていいのかい? 今は押せ押せだろうに」
「これでいいんだ。こっちも消耗を強いられる。長引かせるべきじゃない」
「僕のジャーグも肩が今一つだしね」
ミントも本音をこぼす。
「頃合いだ。一遍戻るぞ」
「何よ、偉そうに」
「教えてほしいならリーダーに聞け」
帰るというジェスチャーをするパシュランに突っ掛かるがいなされた。
「ちゃんとした理由がある?」
「あるよ、ペルセ。このパンチはじわりと効いてくる。相手に考える時間を与えれば更に効果的だ。すぐに分かるさ」
「ん、了解した」
XFiのアームドスキンもイオンジェットの黄色い光を棚引かせて帰投する。ここからは整備士の戦場になる。
(あの人類最強と呼ばれる軍を相手に五分に戦ってる。それも仲間を失わずに)
安堵して無重力タンブラーの吸い口からドリンクを飲む。冷たい液体がフランチェスカの喉を通って胃まで達するのが感じられる。それだけ身体が熱くなっている。
(二年前、ゼフォーンで這いまわるように戦っていたのが嘘みたい)
僅かな期間で情勢は目まぐるしく変わり、夢だった解放が現実になり、全てを引っ繰り返せるほどのところまで来ている。厳しいのは変わらなくとも今はやり甲斐のほうが強い。怖いが先に立ったあの頃とは違う。
(それもあいつのお陰。まさかライナックの子孫だったなんて。これが英雄の血の成せる業なの?)
少し悔しいが認めざるを得ない。間違ってもへりくだるつもりも無いが。
(あいつと私はこのくらいの関係がちょうどいい。あれ以来、フィーナが本気で目を光らせてるし)
戦場でも笑えている自分を褒めてやりたい。
「大丈夫っすか? ゆっくり休んでいてくださいね」
整備士のピストがコクピットを覗いてくる。
「ありがと。よろしくね」
「任せてくださいっす!」
ウインクを贈ると、少年は頬を赤らめて跳び離れていく。体捌きもプロのそれになってきたと思う。
視界の隅をオレンジ色がよぎる。同年代のもう一人の少年はキャットウォークの手摺を蹴ってどこかに向かっていった。
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