野望と陰謀(11)
警察のラズーバの頭部を殴り付けて吹き飛ばす。両の太腿を薙いで倒し、もう一機のブレードを躱しざまに背後から制御部を斬り裂く。先に倒しておいた機体のコクピットの前にフォトンブレードを突き付け投降させた。
かなり激しい機動を行っているが、フォウズとハンスは楽しげな悲鳴を上げつつシートに掴まっている。ナタリアも目まぐるしく変わるモニターの様子に歓声を上げている。
(こいつら、タフだな)
そう思いながら、再び浮かせたパシュランをパルスジェットだけで低空飛行させながら大通りを遊弋している。
治安維持軍の軍用機を3チーム撃破したところで敵の圧力は格段に低下した。しばらくは路地移動も繰り返していたが、既にその必要も感じなくなり、ほとんど警察機の掃討をやっているような状態である。
少し前から単発で衛星からの拡大画像も入ってきている。おそらくエルシがレーザー通信を軌道から狙い撃ちで落としているのだろう。それを使って巡回する敵機を撃破して回っていた。
「どうやらおおよそ掃除は済んだみてえだな」
最新画像をざっと眺めてそう判断する。
「勝ったの?」
「いや、面倒なのが一機残ってる」
ここ数枚の画像にはピンが落としてあり、そこに狙撃手らしきアームドスキンが大型のビームカノンを構える様子が窺えた。
「奴を何とかしねえといけねえ」
「兄ちゃんなら一撃だろ?」
「簡単に言うなよ」
失笑が漏れる。
(さてどうする?)
見慣れない機体だ。アルミナ製とは思えない。明らかに系統が違うように思える。
「今から派手にやるが、お前ら降りとくか?」
地上に降ろしても大丈夫そうだ。
「いや」
「最後まで付き合えって言ったの兄ちゃんだろ?」
「しゃーねえ。揺れるぞ」
少し離れたビル影から一気に上昇する。空を背に狙撃手を見下ろすと既に砲口はこちらを向いていた。
(油断なんぞ欠片もねえってか! だが、手前ぇだけなら真っ正面からいくぜ!)
輝線が真っ直ぐコクピットを貫いている。一撃でリューンを仕留めるつもりなのだ。その軌道へとフォトンブレードを滑らせる。
「おりゃあ!」
一瞬遅れて空間を切り裂いたビームは力場によって真っ二つに分かれる。上空からならその余波が建造物を破壊する心配もない。
「ビームを斬ったぁ!」
「わー! ディーンみたい!」
「何だそりゃ?」
着地するまでの三射を全て斬り裂いて敵機の傍に降り立つ。向けられる砲身を半ばから右のブレードで落とし、左を滑り込ませるが跳ねるように躱した。
(やりやがる)
並のパイロットではない。
すぐにビームブレードを伸張させた敵機と斬り結ぶ。飛び散る火花に子供たちの歓声がひと際上がるがそれどころではない。
突きの連撃を弾きつつ前進し、左のブレードで上に滑らせながら入り込む。右を脇腹へと忍ばせたがぎりぎりで躱された。しかし、その軌道上の頭部は半壊させる。
「ちぃっ!」
相手は不利を悟った途端に身をひるがえした。
「手前ぇみてえな厄介なのを逃がすかよ!」
ペダルを踏み込みイオンジェットを閃かせたパシュランは背後へと追い縋る。咄嗟のことで加減はできない。背中の中央からコクピットへとフォトンブレードが貫いていた。
「勝ったー!」
駆動停止した敵機を前にフォウズたちは喜び合っている。機内がどうなっているか想像もしていないだろう。
(仕方ねえな。見せる必要もねえ)
リューンは彼らが期待するような人間ではないと自嘲した。
◇ ◇ ◇
都市ナクトホーンの数ヶ所から煙が上がっている。防衛ラインは維持し続け、侵入はさせなかったものの、阻止し切れなかったビームが何発かが街区を襲った。犠牲者は出ているだろう。
「力足らずか」
苦虫を噛み潰した面持ちでダイナは漏らす。
「リューンが居れば少しは早くに数を削れたかもしれないが」
「そのリューンはどうなったの?」
「エルハーケンの様子は、ハーン?」
ミントは気掛かりで仕方ないようだ。
「ほぼ制圧らしい。あいつ、一人で……」
「マジか!」
「やってくれるね! 僕たちも負けてられないよ!」
ポートデリーも掃討段階らしい。ナクトホーンも統制庁の占領が済んで、ハーディ市民軍のアームドスキンが援軍に姿を見せ始めた。
「さあ、エフィ。君との楽しいダンスの時間だよぉ!?」
ここからは混戦でも構わない。ミントは張り切っているようだ。
「女の子の誘いを断るのは心苦しいけど今日は遠慮しとくよ。また今度お願いしてもいいかな?」
「自分の都合ばかり押し付ける男は嫌い!」
「そんなぁ」
悲鳴を上げつつも調子のいい男は逃げを決めていた。
◇ ◇ ◇
ディーンというのはアニメーションに出てくるヒーローの名前らしい。ハンスが教えてくれた。
どうやら昔の英雄になぞらえた話で子供たちの間で大人気なのだそうだ。三星連盟大戦時の英雄の話だと聞いて、リューンは苦々しい表情になってしまう。
(油断も隙もありゃしねえ。まあ、こいつらには分かりゃしねえだろうけどな)
いつまでも子供を乗せておくわけにもいかない。
戦闘が終了して、大通りには人があふれ始めている。その上をゆっくりと飛ばしながら呼び掛ける。
「おーい! フォウズとハンスとナタリアの親は居るかー?」
外部スピーカーで呼び掛ける。
「ママ、あそこー!」
「母ちゃんだ!」
皆で人ごみの中の子供を探していたのだろう。
頭を下げ続ける両親に彼が感謝を告げる。助けられたのはリューンのほうだ。
「俺、大きくなったら兄ちゃんみたいになりたい」
フォウズが言う。彼はその頭に手を置いた。
「馬鹿言うな。俺みてえなはみ出しもんじゃなく正義の味方になれ」
「えー、正義じゃん。みんな、そう言ってるし」
抱えたナタリアが頬にキスをくれる。子供たちを抱き寄せて勝利の雄叫びを上げた。
群衆の奏でる剣王コールはいつまでも鳴りやまない。
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