解放攻勢(8)
プネッペンの解放に成功した戦艦ベゼルドラナンの会議室には主要メンバーが集合している。軍の部隊は早々に撤退したために
「市長を始めとしたアルミナ人議員及び、治安当局の幹部も放逐するのはいつも通りで構わないだろう」
「体裁を整えるためだけに議員の座に居たゼフォーン人も役には立つまい。支配地域で勉強させていた執政官の中から選抜して呼び寄せねばなるまいな」
「それなんじゃが、教授。人員にも限りはあるんじゃないかね。これから解放を進めていけば立ち行かなくなるのであろう。地元から選出していくようにしてはどうじゃね?」
「一人ひとり面談して
その主張には、自分の息の掛かった者を各地の首長に置きたい考えが見え隠れする。それを懸念して提案したオルテシオ艦長は譲らないガイナスを前に髭を捻る。
このままでは彼が望む通り、旧来の階級社会が復活しそうである。教授の思想に復古の香りがするのは危険な感じがしてならない。
「志を同じくしながら行政から遠ざけられ、苦渋を嘗めていた者も多かろうと思うのじゃがのう。任せてみんかね?」
艦長は諭すように続ける。
「我らはほぼ軍。あまり前に出過ぎても国際政治上危険視されるのは自明の理。軍政復活と思われれば孤立もある。それに、統率者には寛容も必要だと思わんか?」
「ふむ」
或る程度は放任し、泰然と構えるのも支持を集めるのではないかと彼の権勢欲をくすぐる。
「艦長の言にも一理あるだろうな。今後を考えれば人材確保が厳しいのは事実。プネッペンをテストケースと捉えて観察してみる価値は認めよう」
「では行政府に提案してみましょう」
議長役をしているアラザ副艦長が意見としてまとめる。
(困ったものよのう)
ロブスン・オルテシオは心の中で嘆く。
彼としては、こういう時にエルシの助言が欲しいのだ。技術的には一手に、財政的には大部分を握っている彼女が意見すれば教授は折れざるを得ない。
しかし、こと政治的な部分になるとエルシは貝のように口を閉ざす。まるで干渉を避けているかのように沈黙を守るのだ。成り行きを見守っているようにも見える。正直、何を考えているのか分からない。
(あの少年が鍵かもしれんか)
彼女を動かそうと思えばリューンに働きかけたほうが早いと思える。エルシが強い意欲を示したのはあの剣呑な空気を纏う少年のことだけ。
ただ、彼のほうも中枢には近寄りたがらない。ガイナスと合わないのもあるだろうが、何か違う理由もあると感じられる。
「ところで例の子たちのことなんだけどね」
議論が切れたところでフランソワ・レルベッテン整備班長が切り出す。
「あたしとしちゃ、使ってみたい気もするんだけど駄目かな?」
「何を言う。ベゼルドラナンは不良少年の更生施設ではない」
抑圧されていた市民が彼らを歓呼を持って迎えた後、二十六名に及ぶバイクに乗った少年少女がベゼルドラナンの戸を叩いたのである。
とりあえずは対応に出たフランソワが、まずは親の許可をもらってくるように言って渋る彼らを追い返したのだが、全員ではないにせよまた集まってくるのは想像に難くない。彼女は受け入れたいと考えているらしい。
「でもさあ、こんな苦しい時代だからこそそれを知る若い世代が必要なんじゃないかねえ。苦労を心に刻んで未来を作ってくれる子供たちが」
フランソワは将来を語る。自分は礎で構わないと思っているのだろう。
「太古の昔ではない。記録として残す方法はいくらでもあるではないかね?」
「語られる実体験に勝るものは無いと思うんだけど」
教授は首を振る。素行の悪い少年たちに作れる未来など無いというように。
「彼らは素人よ」
「女史も不要だと思うだろう?」
「いいえ、貴殿が何を危惧しているかが分からないの。何ができて? 作戦を練ることもできなければ、人心を掌握するような弁舌も持たない。今の組織への影響力など無い単なる労働力とお考えになればよろしいのではないかしら」
実際に彼がそう考えている人間は多いと思われる。
「その上で彼らは良い広告塔になると思いますわ。加えることで
「では彼らの世話はレルベッテン整備班長に任そうと思うが問題無いね?」
オルテシオが提案すると誰も異論は挟まない。
数時間後に二十六名全員が戻ってきたのにはフランソワも驚きを隠せなかった。
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