ゼフォーンへ(9)
星系到着時の戦闘と違って今回は母艦を防衛しつつ降下する作戦になる。戦闘空母ラングーンはもちろん、各アームドスキンも単独で大気圏降下が可能だ。こちらにとっては時間制限はない。
しかし、敵機は戦闘で推進剤ロッドを消費した状態で重力に掴まれると降下するしかなくなる。場合によっては
「軌道上に艦影二!」
聞きたくもない報告が部隊回線を走る。
最初に発見した二隻に急襲を掛け一隻は沈めたものの、別の二隻が合流。三隻分のアームドスキンを相手にしながら戦闘中にこの報告である。
「距離6000! 接触まで十五分!」
光学観測の誤差を入れても時間的にはそう変わらないだろう。
「おいおい、おかわりなんかした憶えはないぞ?」
「もう満腹です」
ダイナに続いて一番若いフレッデンまで不平を漏らす。
宇宙戦闘艦の対空武装は自動のビーム砲と拡散ビーム砲。四連装ながらもカノンインターバルのあるビーム砲塔は動き回るアームドスキンへの有効打は困難で、それで接近を阻止しながら入り込まれた敵機は拡散ビーム砲塔での撃墜を望むしかない。
そこまで接近させないようにアームドスキン隊で撃破していかなければならないが、絶対的に数が足りない。迎撃するには手が回り切らない。
「降下可能まで何分掛かる?」
ダイナもどこまで持ちこたえられるか計算しつつ動くしかない。
「今の速度だと十二分」
「軌道を維持できれば間に合うな。守り切るぞ」
アームドスキン隊のリーダーは守りに入る決断をした。
◇ ◇ ◇
「このままじゃ防ぎ切れねえ。突っ込む度胸はあるか、ミント?」
「ぼく? やる気?」
リューンは無理をして敵機を撃破しようと言っているのではない。ラングーンを固めて防ぎ切れる数ではないから突出して囮になると言っているのだ。
敵艦を窺うと見せかけて敵機を引きつける。それを引っ張りながら時間を稼ぎ、自艦を降下させようと目論んでいる。そこまでは理解できる。
「アルタミラとペルセでチェスカをガードしつつ追尾させろ。俺とミントで敵を引っ張る。射的大会だぜ」
あまりに大胆な意見が飛び出す。
「あの中へ?」
「そうだぜ?」
まだ五十機近くは飛び回っているように見える。それに向けてラングーンの砲塔と連動するように迎撃して持ち堪えているだけの状態。確かに十数分でも無限に感じかねない難しさである。
「やる?」
ミントは唾を飲む。
「意味はある。でも、命の保証はないね」
「また、こいつは……」
フランチェスカは呆れの台詞しか吐けない。
「救助者を生きてゼフォーンに降ろさなきゃ、わざわざアルミナまで出張った意味が無い。ペルセは賛成」
「あはは……、ぼくが一番ヤバくない?」
「頑張れ」
年下に無情な宣告をされてしまった。
(ぼくがガード向きじゃないのは本当だし、役回りは合ってる)
ミントは溜息を飲み込みつつ了解した。
ダイナの了承を得た五機が突如として艦を離れると敵アームドスキンは反応する。前面に出たジャーグが切り拓き、ミントが隙をついて撃墜する。
群がる敵機にフランチェスカが狙撃を仕掛け、そこへ集まってきた相手はアルタミラとペルセイエンが連携して攻撃、可能なら撃破していった。
「ほら、食っとけ」
頭部と腕を失った機体が蹴りつけられ流れてくる。
「その言い方!」
「釣れねえな。手柄を譲ってやってんのによっと!」
リューンが次と対している間にミントのビームが敵を閃光に変える。
「君を拾ってきたのが今回最大の失敗だって気がしてきたよ!」
「ご挨拶だな。あの偉そうなおっさんみたいなこと言うなよ」
「馬鹿なこと言ってないで十時の方向!」
フィーナの指示が飛んできた。この一隊は彼女の担当になっている。
無謀な賭けだった気がするが思ったよりやれている気もする。順調に敵中深く入ってきた感じが否めない。
「ちょっと薄いね。あまり引っ張れなかったかもよ」
アルタミラが広い視界で様子を確認している。
「引き返す?」
「それも良くないね。どうせなら奴らの尻に火を付けよう」
ペルセイエンの提案を彼女は却下。このまま進めのようだ。
「しゃーねえな。あれを沈めりゃ奴らも諦めるだろ?」
(簡単に言っちゃうよねえ)
防備は薄いが直掩がいないわけでもない。だが、ジャーグは平気で突っ込んでいき撃破する。ミントも続くしかなく、もう敵艦が目の前だ。
(こんなご馳走、要らない)
ジェットシールドで拡散ビームから機体を守りつつ掠めるように飛ぶ。脚部に被弾警報が出ているがもうどうでもいい気がしてきた。
通り過ぎ様にエンジンに数射放って旋回する。リューンも砲塔のビームを斬り裂きながら背後に回ってビームカノンを使う。さすがにこの大きさの的には当たっているようだ。
フランチェスカがもう一隻を沈めると敵機の動きが変わった。帰還場所を失って慌てたパイロットたちは接近してくる敵艦へと進路を取る者と、戦場から離れてアルミナ勢力圏へと降下コースの計算を始める者とに分かれたのだとアルタミラが説明してくれた。
「勝負あったね。戻るよ」
皆が安堵の息を吐く。
誰もがどこかしら破損しており、厳しい状況なりに一人も欠けないで戻れるのを喜ぶ。互いに讃え合うように親指を立てて見せた。
「お兄ちゃん」
元気だったフィーナが口調を変えて告げてくる。
「ラングーンは沈むって」
突然の宣告だった。
「何だとぉ!」
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