ゼフォーンへ(7)
『ブレードのロッドが不足しています。換装してください』
「うるせ! 両手を空ける暇がねえんだよ!」
定期的なアナウンスにリューンは突っ込み返す。
今手にしているのはスカートのように広がる
一本目は敵のビームを斬りすぎて、重金属イオンを循環させるブレードコアが溶け落ちた。左右ともだ。換装を余儀なくされているのだが時間が取れない。ショルダーガードのグリップでは更に持ちが悪いだろう。
「ちぃっ、面倒な!」
「どうにかして、お兄ちゃん! そのままじゃ武器が無くなっちゃう!」
「時間を作るのも利口な戦い方よ」
フィーナとエルシに重ねて説得されるうえに、コンソールの警告点滅周期もどんどん短くなる。
「やりゃあいいんだろうが!」
「冷静にね」
群がる敵にバルカンファランクスを放って遠ざける。一気に加速して距離を開けてラッチに噛ませたら、左手で換装ロッドを取り出す。グリップエンドから残ったガイドを排出し、ロッドを叩き込んだ。
「くおっ!」
至近弾が脇腹を掠める。ビームコートは溶け消え、装甲内のジェルも揮発蒸散して白いガスを宇宙にぶちまけた。
「ついでだ!」
グリップを一時的に脇に挟み、バルカンファランクスのロッドも換装する。それだけの作業をビームを躱しながら行う。神経がすり減っていくのは否めない。
「たかってくんじゃねえよ!」
「墜ちろ!
「やれるもんならやってみやがれ!」
放たれたビームを半身で躱し、掲げられたジェットシールドを蹴り下げる。頭部をブレードで刎ねたら胸にバルカンの砲口を押し当てるようにして発射。穴だらけになった敵アームドスキンは力無く流れていくと誘爆した。
「まだ減らねえのかよ」
右手をビームカノンに持ち替えて当たりもしない牽制射撃を加えていると、ダイナを中心とした四機が混戦を抜けていくのが見える。敵艦へと攻撃して退かせる気なのだろう。
「ああ? その間、持ち堪えさせろってのか? やってやるぜ!」
「ラングーン、前進! 加速タイミング間違えないで!」
ダイナ隊の動きを察知した敵機は追撃に入る。その隙間を縫って戦闘空母が非戦闘宙域を抜けてゼフォーンへと向けて加速する。巡行速度に達する前にアームドスキンは帰投しないと孤立する羽目になる。
「りゃあ!」
砲口に押し当てるようにジェットシールドを掲げて突進し、胴を薙ぎながら通り抜ける。
「浅いか!?」
切っ先が浅く斬り裂いただけだ。ダメージはほぼ無い。
攻撃にキレがないと見て二機の敵が距離を詰める。疲れてきたと感じたのだろう。それでも油断なく、左右に分かれてビームを招き入れる。手強いリューン相手にその二機はブラインドを作ったつもりなのだ。
「見えてんだよぉー!」
左半身で紙一重に躱す。突き出したバルカンファランクスが咆哮し、砲撃したアームドスキンにビームの嵐を浴びせて撃破する。
ただし、ジャーグの胸、コクピットの直前を掠めた一撃もビームコートを削ぎ取り、ジェルを揮発させていた。そうしてリューンの鎧は僅かずつ弱まっている。
遠く巨大な爆炎が花開いた。ダイナ隊が一隻沈めたらしい。
敵部隊に動揺が走ったと感じられる。
実際にアームドスキンもかなりの数が撃破、もしくは大破に追い込まれている。そんな空気を察すると、前線の兵はいつ撤退信号が来るか心のどこかで意識してしまうだろう。それが攻撃を消極的にさせる。
「逃げたきゃさっさと逃げろよ! いちいち追うほど暇じゃねえ!」
斬り落としをブレードで受けた敵機を左で薙ぐ。ジェットシールドで阻まれた斬撃を押し込んで振り抜くと、互いに突きを交差させるように入れる。相手の突きはショルダーガードを僅かに溶かして通り抜け、リューンの突きはコクピットど真ん中を貫いていた。
胴も一文字に斬り裂き誘爆させる。撃破を明確に誇示するため。それを見た敵は一様に逃げ腰になってきている。
(潮時だな)
ラングーンは加速を続けているが、敵艦は防空圏に侵入したダイナ隊を警戒してイオンジェットの光を見せていない。
(来た)
球面モニターに黄色く帰投信号が表示され、
「お兄ちゃん、そろそろ帰って」
「おうよ、すぐに戻るからそのまま行ってろ」
混戦の宙域にいくつものイオンジェットが流星のように光を棚引かせる。
敵アームドスキン隊は追撃の余裕はない。相当数が撃破され、編隊を組むのもままならないほど激減している。何とか脱出した味方の捜索に動き始めるだろう。
ラングーンの放つ噴流を避けて艦体上方へと機体を滑らせる。通り過ぎるときに
(艦橋まで連れ込んでんのかよ。仕方ねえやつだな)
思わず笑みが漏れる。
リューンも手を挙げて見せると
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