剣王(4)

 ブリーフィングルームに集まっているのは、教授プロフェッサーガイナス以下、オルテシオ艦長、エルシ、パイロットの全員とオペレーターのハーンとフィーナであった。アラザ副艦長が艦橋ブリッジ詰めで残っている為、エルシが進行役に回っている。

 収容所内部の決起準備がようやく整いつつあり、作戦決行への最後の詰めに入っている。今回は作戦素案の検討と戦力配置が目的だ。


「目標は北ソネム大陸東岸のバントラム収容所よ。これを急襲して、アーガニー、ディグリダ、両将軍以下の重罪として連行された政治犯を救出するのが目的です」

 投影した地図にポインタを落として説明する。

「この通り、王都ウルリッカとは離れているから戦力的には守備隊だけを相手どれば済むはず。距離的に作戦中に多数の増援が来るとは考えにくいわ。ただし、収監者を回収するために民間機エアクラフターを使います。撃墜されないよう守備隊の完全排除は必須なので二段構えの襲撃を行うの。その戦力振り分けをしなくてはなりません」


 確実な守備戦力排除の為に、まずは一次攻撃で敵戦力を引き出して誘導し、残存守備隊を二次攻撃で完全排除する作戦である。


「一次攻撃隊は撤退を装ってこのミーブハイムまで後退。都市を背にして敵を牽制しつつ戦力の注意を引きつけ続けるの」

 エルシは近在の都市にポインタを落とす。襲撃に失敗し、都市テロに切り替えたように見せ掛ける策のようだ。

「その間に二次攻撃部隊が敵を排除しつつ、内部で呼応して決起、脱走してきた収監者とエアクラフターを警護して降下したラングーンに保護します」

 二次攻撃部隊のほうが手数が必要だ。

「今の計画ではダイナチームの八名で一次攻撃隊を、他で二次攻撃隊を編成します」

 危険性は一次攻撃隊のほうが高い。練度の高いパイロットチームを配置する形だ。


 特に異議も無くブリーフィングは進行する。この素案自体を計画したのは教授プロフェッサーだから異議は無いだろうし、ダイナには予め相談があったらしく危険な任務にもただ頷いている。


「なあ、バントラムってあのバントラムの叛乱のあれだろ?」

 急に尋ねてきたのはリューンである。

「そうね、二十年前には叛乱の舞台になった地。元はその時の叛逆者の収監施設だったらしいわ。それが今は政治犯収容所と化しているの」

「俺も学校で習っただけだがよ……」


 そこを領地としていた上級貴族バントラムが叛乱を起こしたのは二十年前。軍事に顔の広かったバントラム卿が起こした叛乱は、規模は大きかったものの国王軍の圧倒的な戦力に屈し、速やかに鎮圧された。

 この事実は、王家を中心とした政府に反抗する愚を戒める為に歴史の教科書にも掲載されているのである。


「確かに因縁の地なのかもしれねえがな、そのミーブハイムって都市の市民が巻き添えになりかねねえ作戦ってのはどうなんだよ。アルミナ国民なら死んでもいいってのか?」

 彼は苦言を呈する。

「格好だけだ。本当にミーブハイムを盾にする気はない」

「ええ、基本的には見せ掛けるだけで守備隊をおびき寄せるのが可能なのよ?」

「じゃあ、どうすんだ? 都市が射程内なのに平気で撃ってきたら」

「撃てるはずが無かろう」

 例えばの話を教授プロフェッサーは一笑に付す。

「分かんねえぞ。もしかしたら俺たちの所為にするかもしれねえ。幾らでも言い訳が利く。都市全体が攻撃を受ける前に撃墜しなきゃなんなかったとかさ。そうなりゃ、攻撃意図が無かったとか言っても、動画とか残しといても大して効果がねえ」

「確かにネガティブキャンペーンに利用するには最適なシチュエーションね」


(ご名答って褒めてあげたいところだわね。さあ、どうするのかしら?)

 エルシはリューンの様子を窺う。


「綺麗事はやめたまえ、少年。所詮これは抵抗運動だ。紳士ぶるなといったのは君ではなかったかね? 今更前言撤回とはいただけんな」

 ガイナスは揚げ足を取りにくる。

「違うって。喧嘩にもマナーがあるって言ってんだよ。関係ない奴巻き添えにして勝ったって何が誇れるんだよ。そういうのは、あんたみたいなのが一番嫌いなんじゃねえのか?」

「ふん!」

 図星だったようで鼻を鳴らす。

「批判だけなら子供だってできる。文句があるんなら対案を出したまえ」

「それなんだがよ、確かバントラム領の首都ガルナ・ベイは廃都になってたよな、フィーナ」

「うん、主戦場になったし、批判の対象になって復興もせずに廃都って教科書にあったと思う」


 エルシがマップをずらすと海岸沿いに『元ガルナ・ベイ』の表記がある。打ち捨てられたままのようだ。


「そこに逃げ込む振りをして迎撃するのはどうだ? 攪乱して戦闘を長引かしゃいいんだろ?」

 リューンは指差しつつ言う。

「それだと味方の危険度が高い。一次攻撃隊を犠牲にするとでもいうのかね?」

「ああん? 言い出しっぺがやるに決まってんだろ。俺がそこに引き摺り込んで遊んでやるから、その間に済ますこと済ましとけよ」

「ほう、大きく出たな? そこまで言うにはやって見せてもらおうか」

 さすがに他のパイロットが無茶だと言い始める。


(悪くない回答ね。その流れでいきましょう)

 彼女は意味深げに笑う。


「確かに無茶ね。二機付けましょう。誰か?」

 立候補を募る。

「あたしが付こう」

「わたしも。慣れてる」

 アルタミラとペルセイエンが手を挙げる。

「ええっ!」


 これに困ったのはフランチェスカである。彼女はいつもアルタミラとペアを組んでいて、他をあまり受け付けない。


「来るのかい?」

「……行きます」

「仕方ないからペルセは残る」


 結果、リューンとアルタミラ、フランチェスカが一次攻撃隊と決定した。

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