剣王(5)

 作戦開始を一時間後に控えて休憩を終えたリューンは、格納庫ハンガーでエルシにジャーグの改良武装の説明を受けている。


「見た目からちょっと変わってんじゃねえか?」

 腰の横にあるヒップガードがかなり大振りになり、ラッチに懸架されているカノンも違って見えた。

「右はビームカノンのままにしてあるけど、左はバルカンファランクスにしたわ。誰かさんがあまりに下手なんだもの」

「下手言うな」


 砲身の太いカノンのような形だが、砲口は三連装になっている。一つひとつの砲径は小さい。


「これなら射線が目に見えるから狙いやすいでしょう? 最大で二秒の連射も利きます。その代り同じ時間だけのカノンインターバルは必要だし、重金属ロッドの消費も激しい」

 ビームのエネルギー量が小さいので連射可能だが、一発直撃させたくらいでは撃墜は難しいらしい。動きを鈍らせる程度だと言われる。

「それでいい。牽制用だしな」

「慣れれば当てられるわよね。浴びせれば撃破も可能よ」

 少し重量もかさむと注意を受ける。

「あとは新しいブレードグリップね。ヒップガード内に格納してあるわ」


 セレクタースイッチを操作すると、ヒップガードの前面スロットから高速でグリップがせり出す。グリップそのものも二回りくらい大型になっている。


「大容量グリップよ。出力も連続使用時間も上げてあるわ。あなた向きでしょう?」

 彼にとっては主兵装である。

「いい感じだぜ」

「同じ物をもう一本格納してあるわ。予備に使いなさい。ロッドの換装はスロットの下」


 ビームブレードも重金属イオンビーム還流で形成されている。ビームカノンと同じく素材となる重金属ロッドは必要。それもグリップエンドから挿入されるようになっている。


「助かるぜ、エルシ。こいつなら何とかなるだろ」

 大口は叩いたが、不安が無くもない。

「ずいぶんと可愛らしいこと言うじゃない?」

「今一つ思い通りに使えてない感触があってな、情けねえことに」

「んぷぷー、お兄ちゃんらしくなーい」

 横で見学してたフィーナにまでからかわれる。

「やめてあげなさい。私がリューンの特性を読み違えていたのも悪いわ」

「何だよ、お前こそしおらしい」

「こんなに癖の強い男だなんて思ってなかったの」

 腹を抱えて笑われている。


 だが、そのフィーナも笑いを収めて不安げな表情に変わる。


「でも、ラングーンは二次攻撃隊と一緒に降下するんでしょ? わたしはナビできないし」

 大気圏内でターナミストを使用すれば、高出力でも電波到達距離は極端に落ちる。バントラム収容所とガルナ・ベイではデータリンクも光学監視も不可能だ。

「ガルナ・ベイにはプローブを落とすわ。レーザー交信でデータリンクするの。光学監視はプローブのカメラと三機のガンカメラの情報統合で自動マッピングするから大丈夫よ。敵機の位置はある程度把握できるはず」

「大丈夫なんだ。良かった」

「廃都市みてえな遮蔽物の多い場所での戦闘だ。お前頼りだからな」

 リューンが妹の頭を軽くぽんぽんと叩くと嬉しそうにしている。

「じゃあ、ちゃんと言うこと聞いてね」

「ワン!」


 ペコにまで念押しされた少年は苦笑いで応じ、ペスは了解とばかりに敬礼している。


   ◇      ◇      ◇


 反重力端子グラビノッツを得た宇宙機は軌道を維持する速度を必要としない。そのままの速度で軌道を下げても重力に捉われて落下したりはしない。降下時に空気の壁と戦わなくていいのだ。

 静止軌道から静やかに降下を始めた戦闘空母の発着甲板デッキには三機のアームドスキンが待機している。


「さ、降りるよ。チェスカもいいね?」

 アルタミラが号令を掛ける。

「はい、続きます」

「いつでもいいぜ」


 艦首からターナ散布機スキャッターが射出されると同時に緑色のルファング二機とジャーグが降下を始める。この位置でラングーンは待機して、この三機がバントラム収容所の守備隊を誘導するのを待つ。

 先行した無人のスキャッターがターナミストを散布すると、それを検知した守備隊基地で動きが始まる。暗号の掛かった部隊無線とともに弱いレーダー波も検知するが、レーダー照準で狙撃を受けるほどの強度ではない。その為のターナミストである。


「レーザースキャン打たれたよ。砲撃くる」

 栗毛髪の女性副隊長は冷静に状況分析している。

「撃ち返しな」

「了解」

 固定砲台が砲撃してくれば位置がロックオンされる。狙撃は易しい。

「使ってみっか」

「あんたもやるのかい」

「せっかくエルシが準備してくれたからよ」


 銀色のアームドスキンは左手にバルカンファランクスを握らせた。砲撃を回避すると同時に、ロックオンした標的に細かなビームを浴びせ始める。

 フランチェスカもビームカノンで狙撃を開始し、地上では多数の爆炎が巻き起こって対空砲火は沈黙した。


「まあまあ当たったろ?」

 部隊回線を通した声は少し自慢げだ。

「動かない標的に当てて喜んでんじゃないよ」

「分かってるって。俺の仕事はこれじゃねえ」

「あ、こら!」


 ジャーグの推進機ラウンダーテールが一層大きくイオンジェットの尾を引くと一気に加速して突っ込んでいく。


「やれやれ、少年のお守りは大変そうだねえ」

「どうするんです、ルッティ?」

 相棒はもう閉口しているようだ。

「合わせるよ」


 フランチェスカ機は彼女に続いて、渋々といった体で加速した。

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