XFi(ゼフィ)(4)
兄をこのパイロットチームに馴染ませる作戦は上手くいったとフィーナは思う。
彼女の友人の中には彼らのようなタイプは少なかったが、付き合いにくいとは思わない。つまるところはリューンと同じ系統の人だと敏感に感じ取る。性格は様々なれど、自身が信じるものの為なら暴力も辞さないが、普段は気の良い人たちなのだろうと思った。
「訊いてみるんだがよ」
珍しく兄のほうから話し掛ける。良い傾向だ。
「なになにー?」
「あのエルシって女には詳しいのか?」
「あー……」
気軽に返答したものの、言葉を継ぎかねているミント。彼女にしては珍しい反応なのではなかろうか。
「彼女は正直に言って謎の多い人物だ」
アルタミラが打ち明けてくれる。
「あんたのほうが縁が深いのではないのかい?」
「いや、初対面だった。あいつが何で俺を買っているのか分からねえが、調べ上げられてたんだよ。だから、こっちはからっきし情報が無いときてる」
「そうなのか」
リューンの説明はちょっとおかしいと思ってしまう。
「お兄ちゃんが
「は?」
「パイロットの方たちってそういう才能を持った人がなるんじゃないんですか?」
「…………」
皆が眉根を寄せて、沈黙の帳が降りる。そこでフィーナは自分の迂闊を覚った。兄の戦いぶりを見て、そういうものなのだと勘違いしていたのだ。
「フィーナ」
兄の咎める口調だ。
「うー……、ごめんなさい」
「初耳だね。その戦気眼というのは何なんだい?」
ダイナが興味深げに尋ね、誰もが注目している。答えずにはいられない状況だ。
「相手が攻撃してくるのが分かるのだそうです。どの方向からどんな軌道で来るかも分かるらしくて。お兄ちゃんは昔からそれを感じていたみたいなんです」
「なるほど。女史は彼のその異能に近い能力を知って、
リューンが諦めたように肩をすくめたので、全て話してしまう。
「どこで調べを付けたのか知らないけどさ、女史らしいっちゃらしいね。どれだけの情報網を持っているのかも分からない」
アルタミラは意味ありげに兄のほうを見ている。意図的に話を戻そうとしてくれているようだ。リューンが話したがらなかったのを汲んでくれたのだと彼女に感謝する。
「で、女史って呼ばれてるみてえだが、エルシは
立ち位置を知るにはそれが一番手っ取り早いと考えたようだ。
「……そういえば知らない」
「古株もみんな女史って呼ぶから気にしたことないんだよねぇ~」
ペルセイエンは首を捻り、ピートも手の平を上にして苦笑している。
「気にならねえのかよ」
「悪いね。本当に彼女は明確な肩書を持っているわけじゃないんだよ」
唯一、ダイナが多少は深く言及してくる。
「立場的には兵器技術顧問。ただのレジスタンスがこれだけの高度な装備を保有していられるのは、ひとえに女史のお陰でもある。敵地まで乗り込んでいけるような戦力が維持できるのもね。だから誰も彼女のやることに口出しできない」
「おい、そいつは大丈夫なのか?」
リューンは険しい顔をしている。
「例えばあいつがアルミナの軍事産業のエージェントだとしたらどうすんだ? この紛争を適度に拡大させて利益を貪って、なおかつ新兵器の実験場みたいに利用してるんじゃねえのかよ」
「へぇ」
ダイナは兄が乱暴な物言いや風体の割に、頭の回転が速いのを感嘆をもって迎えている。意外だったのだろう。
しかし、フィーナは知っていた。退学はしてしまったが、リューンの学校での成績はかなり良かったのである。授業はサボりがちではあったが、勉強が嫌いなわけではなかったようだし、今でも機転は利くほうだと思っている。
「それはちょっと考えにくいかな。女史はこれまでも
ダイナは彼女を信頼しているようだ。
「だいたいアルミナ側の人間ならば、こんな潜入作戦は支持しないだろう。自社が被害をこうむる可能性は避けたいはずだ。なのにこの作戦を強く推したのは彼女のほうなのさ」
「そうだったのか?」
「ああ、僕には理由が分からなかったんだが、君の勧誘作戦を強行した時点でそれが本来の目的だったんだってようやく理解したね」
エルシは組織の運営にまで口出しできる立場らしい。そして、このパイロットチームリーダーもその議事卓に呼ばれる地位に在るというのも分かった。
「それはしゃべっていい内容だったんですか、ダイナさん」
フィーナは聞いていてちょっと不安になった。
「うーん。微妙だけど、女史が疑われるのは不本意だったんでね。それにちゃんと知っておくべきだ、リューン。彼女がどれだけ君を買っているかということを」
「厄介な女に絡まれたと思ってたがよ、こいつはちっとばかり考えを改めなきゃなんねえだろうな」
半分は本心で、半分はダイナを安心させる方便だろう。兄の猜疑心は強い。それは全て妹である自分を守る為のものだから咎められない。
「見込んでくれているんだから、ちゃんと向き合おうね、お兄ちゃん?」
「ああ、分かったって」
フィーナは兄の背中を押しておいた。
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