XFi(ゼフィ)(3)
「身体動かせるところくらいあるんだろ?」
彼らの部屋に案内するというエルシに尋ねておく。
「あら、少しはやる気になっているの?」
「今はフィーナを食わせる方法がこれしかねえ。ちっとばかし鍛え直さねえといけねえだろう」
(
こちらを窺っている目付きからして、彼女はリューンの考えくらい読んでいるように見える。
仮眠をとって疲れを癒した彼はトレーニングルームに顔を出す。そこには男女ともに肉体派と思える人々がたむろしていた。
「やっぱり部屋で休んでろよ」
ついてくると言い張ったフィーナに忠告する。こういう人種とは縁遠いだろう。
「いいの。お兄ちゃんが戦うのなら、わたしはお世話するのが仕事」
「自分の面倒くらいみれるって」
そう言いつつも自由にさせておく。今はまだ不安が拭えないのだろう。
「あー、来た来た。女史のお気に入りくん」
「ご挨拶じゃねえか」
「そんなにつんけんしないの。お仲間でしょ?」
今はスキンスーツを脱いで、短めのトレーニングウェアに着替えている女が言う。
少しくすんだ金髪、アッシュブロンドを背中まで流している碧眼の女は、ハンガーで彼の肩を叩いていったパイロットの一人。童顔に朗らかな笑みで馴れ馴れしく近付いてくる。
「
考えることは同じかと口元が緩んでしまう。
「あはー、笑ったー。そのほうがいいよ。せっかく背中を預け合うんならね。僕はミント」
「ミント? ああ、あの使える女か」
曲芸じみた射撃を見せたパイロットだと思い出す。
「君も大胆だったよ。誰くんかな?」
「リューンだ」
続いてフィーナも自己紹介している。
「トレーニングに来たんでしょ? おいでおいでー」
「引っ張るなって」
距離感の無いミントに引かれて集団の中に入っていく。彼らは気の合うチームだという話だ。あの時、救援に来たのもこの八人らしい。
金髪の優男がリーダー格でダイナ・デズン。エルシに声を掛けてきた男である。
青緑の不思議な瞳を持つモルダイト・バングは彼より年上だがサポート役に徹しているらしい。
赤毛の陽気なピート・モランと、一番若い緑眼のフレッデン・ベルメランで男性陣の四人は全て。
女性陣のリーダー格は栗色の髪のアルタミラ・キンリー。
先ほどのミント・コフレットと控えめな茶色の瞳の美女フランチェスカ・ポーラ、一番年下が白に近い金髪の持ち主で無口なペルセイエン・フィフィードという少女らしい。
「お前らもあの偉そうなおっさんに締め出された口か?」
聞けば苦笑が起こる。が、反論もあった。
「それは君たちが
「真面目に聞いていられるのなんてあんたくらいのもんさ」
「ダイナは
アルタミラとミントに茶々を入れられる。
「俺たちみたいなのはさぁ、あんな理屈っぽいのに付き合っていられない人種なんじゃない?」
「今後も窓口は頼むぞ、ダイナ」
ピートは断言し、モルダイトも賛同する。
「お前は味方してくれるだろう、フレッド」
「僕にもダイナさんの真似事はできませんよ」
年若いパイロット仲間にもフラれてしまう。
こなれた感じがする。これがいつもの空気感なのだろうとリューンは思った。
「リューンって幾つ?」
常に口火はミントである。
「十六」
「ひゃー、若い! フィーナは?」
「十五です」
妹のほうは笑顔で彼らに馴染みつつある。
「じゃあ、一番近いのはペルセだねぇ」
「ペルセは十九。お姉さん」
「そこは主張しちゃうんだ」
曲げられないところらしい。
「仲良くしてください、ペルセお姉さん」
「ん!」
言葉少なだが、少し頬が赤い。フィーナの対応がお気に召したようだ。
妹は客商売が長いだけあって人付き合いが上手い。心配せずとも、誰とでも馴染んでしまうだろう。彼女がそこに居る権利だけ守ってやればいいのだ。
「兄のこともよろしくお願いします」
ペルセイエンの顔が強張る。
「不良、怖い」
「誰が不良だ」
「だから、お兄ちゃんはそこで凄んじゃ駄目!」
腕をつねられるがそれでいい。フィーナの居場所が早く作れる。
場が和んで会話が弾みはじめたところでリューンも器具に取り付いて身体を動かし始める。鈍らせているつもりは無い。いついかなる時も、何にでも対処できるように自らを絞り込んできた。
だが、アームドスキンというマシンは気力はもちろん、体力も吸い取っていく乗り物だと感じられた。もう数段は鍛え上げなくてはならないと思っている。しばらくは時間があればこのトレーニングルームに通ったほうが良さそうだと感じられる。
「ねえねえ、リューンって動物好きって本当?」
「意外な一面だな、不良少年。そのギャップはなかなか萌えるポイントだぞ」
ペスがもう両手を上げて驚きのポーズをしているから隠しようがない。
「勝手にばらすんじゃねえよ、フィーナ」
「あはは、ごめんなさい」
悪びれない妹の態度に、リューンは額に手を当てるしかできなかった。
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