アルミナの不良少年(6)
クルダスの上空までジャーグを上昇させると、接近してくる三機のファーレクが確認できる。一機が頭部を失っているのは先刻リューンが潰した相手だからだろう。
ビルの影に機体を入れるように飛行したら砲撃はしてこない。さすがにそこまで無茶はやらないらしい。
逆にいえば、クルダスを外れれば何でもやってくると思ったほうがいいだろう。そうでなくとも、僚機が撃破されているのに気付いただろうから。
「来るぞ。舌噛むなよ」
荒っぽい機動は避けられない。
「リューン、ブレードグリップを動かさなくてもアームドスキンは曲がってよ? バイクではないのだから、
「うるせえ! もう身体に染み付いちまってんだよ! 勝手に動くくらいにな。そんなすぐに慣れるか!」
まるでバイクを操るように身体が動いてしまうのだ。
操縦用フィットバーは腕全体の動きを拾い、それを拡大して機体の操作へと反映する。いわゆるマスタースレイブシステムで、昨今の子供であればゲームなどで身に付いている操作なのだが、彼の場合は別のものが身に付いている。
「お兄ちゃん、顔赤い」
「舌噛むから黙ってろって言ってんじゃねえか!」
妹のほくそ笑む表情が浮かんで声を荒げる。
(緊張感がねえ。フィーナはどうしてこんなふうに育っちまった?)
彼は、ほぼ自分の所為だなどとは思ってない。
ジャーグを荒野まで飛ばすと、予想通り黄色の輝線が背後から貫いてくる。回避軌道を取ると、光芒が直前まで機体の居た位置を通過していった。
「あまり派手に撃ってこないな」
一拍の間を訝しく感じる。
「ビームカノンは連射が利かないの。内部に磁場展開しているから、重金属イオンビームで砲身が破壊されることはなくても、誘導磁場が熱を持たせてしまうのよ。冷却時間を置かないと砲身融解を起こすわ」
その為にリミッターが掛かってトリガー操作をしても発射されないらしい。
「なるほど。使えるな」
「誰もがそう思うのよ。だからビームブレードみたいなインターバルが不要な武器を装備していてよ」
「あー、そっかぁー!」
論理的な説明にフィーナまでもが感嘆している。
高集束度を必要とするビームカノンでは砲身内に磁場展開して集束放出を行う。対してビームブレードは空間展開した磁場内でイオンビームを循環させている。
見た目に反して必須エネルギー量はビームブレードのグリップのほうが高い。コンソールと並行して、σ・ルーンまでもがチャージ警告を発してくるのはそのためらしい。
指のセレクタースイッチでチャージ操作をすると手首のチャージプラグが伸びてブレードグリップへとエネルギーチャージを行う。その間は自由にブレードを振れないのでタイミングが重要だと注意を受けた。
「アニメーションみたいにバンバン撃ってこれないんだね。なんか地味?」
妹が身も蓋も無いことを言ってくる。
「技術者が泣くぞ」
「ええ、軽く泣けてくるわ」
「わー、エルシさん、ごめんなさい!」
アームドスキンを地面まで降下させる。
射撃を主とするなら高度を持つほうが優位に思えるが、回避が容易なリューンにとっては大地に足をつけて俊敏な動作を可能にしたほうが対処が楽になる。相手が手慣れた得意なフィールドで戦うよりは、自分のフィールドに持ち込むほうが良いに決まっている。
ビームで大地にクレーターを刻ませていると、そのままでは埒が明かないファーレクが接近戦を挑んでくる。敵もおそらく彼の経歴を調べているのだろう。動作に違和感を覚えようが、素人と侮っているのに変わりはない。
(悪いが、ここでなら俺も思いっきりやれるんだぜ?)
意地の悪い笑みが口元を彩る。
叩き付けるようにペダルを踏み、ジャーグに大地を蹴らせたリューンはイオンジェットの尾を引いて頭の無い機体に斜め下から斬り込む。ブレードはジェットシールドに阻まれ、砲口が胸に突き付けられるが、更に低く搔い潜ってもう一方のブレードで胴を一閃した。
爆散する光から機体を抜けださせると、真上から一機が斬り付けてくる。それが見えていたリューンは右手のブレードで受け、カウンターの左ブレードで胴体の真ん中を貫いている。
「そん……! 嫌だ!」
一瞬だけ共用回線から飛んできた悲鳴に顔を顰める。
「覚悟がねえなら俺に喧嘩を売るんじゃねえ!」
「貴様ー!」
「お前もだ!」
迫るビームにアームドスキンを横滑りさせ、斬撃をしゃがんで躱すと回し蹴りで相手を浮かせる。
「何なんだ、これは!」
くぐもった悲鳴とともに流れてきた問い掛けに冷たく応じる。
「知るか! 仕掛けてきたのはそっちだろうが!」
「貴様はライ……!」
その時には飛び上がったジャーグが胸部を横一文字に斬り裂いている。対消滅炉が誘爆すると同時に回避機動を取ったリューンは機体を反転させた。
「南だったな。そこに行きゃ、俺たちが居られる場所があるのか?」
「あなたがその力を示している限りはね」
彼は溜息を零す。
「流れに任せるしかねえのか。行くぞ、フィーナ」
「うん、お兄ちゃん……」
振り向けば、少し不安げな妹の顔があった。
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