破壊神のさだめ(後編)(8)
戦闘空母レクスチーヌは討伐艦隊五隻の最前、いつものように鏃の先に位置している。エヴァーグリーンとアイアンブルーの大型戦艦二隻の前衛をする形だ。この編成で戦闘宙域に突入した。
その
しかし少し下がり気味だったアームドスキン隊が前面に配置してくれて安心する。更に艦首付近に白いアームドスキンまで戻ってきてくれたとなると、心拍数は落ち着いてきている。
「弾体ロッド、届いた?」
ナビの必要はないが、戦闘補助はできる。
「もらったよ。ありがとう、リム」
「ううん、頑張ってもらわないといけないし」
「微妙かな。ここからはどちらが先に音を上げるかの殴り合いになりそうだからね」
防御磁場を失った要塞は間も無く艦砲の有効射程に入る。ダメージを与えれば精神的に追い込むのは可能だが、敵にはアームドスキンの大部隊が残存しているし戦闘艦隊も内部に無傷で内包したまま。
「怖いけど我慢するから」
既に周囲は戦闘光一色。
「うん、ここは我慢しないとね。リアクション、遅いな。要塞を放棄する命令が下ったんだよね?」
「突入部隊からの報告」
「なのに隔壁が開く気配が無いっていうのはどうなの?」
リムニーにも理由は分からない。
「北天部分で閃光確認。規模からして戦艦クラスです」
「爆散しただと? 北天には司令部代わりの旗艦ロアンドラが係留されていたのではないのか?」
「突入調査部隊からはそう報告されています」
「確認急げ。砲撃開始する。フォア・アンジェ三隻は下方へ遷移。エヴァーグリーンの射線空け」
「了解!」
「拡散ビームを除く全艦砲斉射」
火器管制卓の出番だ。
戦局は目まぐるしく変化し、把握している暇がない。アームドスキン部隊に警護を指示しただけで終わったオペレータは多少なりとも余裕がある。厚みのある敵部隊の位置をデータリンクで流す程度だ。
「敵旗艦が沈んだ? ユーゴ、何かした?」
頭の中の疑問をぶつけてみる。
「残念だけど僕じゃないね。だってここに居るんだもん。協定者もそんなに器用じゃない」
「だよね」
軽口につい笑みがこぼれる。少年といると安心感が違う。
「だとすれば、用っていうのはあれかな?」
「なに?」
「うーん……、敵も色々あるってこと」
電波の向こうではユーゴとリヴェルが会話しているのが聞こえる。一応は確認する気らしい。
リムニーは北天方向を眺めながら結果を待つことにした。
◇ ◇ ◇
(時間の無駄だ。どこまで手間を掛けさせる)
一気に数百名の同志の命を奪ってもアクスに何の感慨もない。
旗艦の乗員など司令部の老害とそれにただ従うだけの機械のような人間ばかり。失ったところでザナストの損失は小さいと思っている。
ただし与える影響となれば話は変わる。このまま放置というわけにはいかない。彼は
「聞け! 同志たちよ!」
戦闘宙域に再突入する前に共用回線で呼び掛ける。敵にも圧力を掛ける意味でだ。
「我らは何を目指す? 完全なる独立だ! 侵略者の目からこそこそと隠れることなく、我らの神聖なる大地で堂々と暮らすことだ!」
未だ反応はない。まだ戸惑いの最中なのだろう。
「なのに首脳部の判断はどうだ! 寒さに耐えることなく、飢えに苦しむことなく暮らせていたジレルドットの放棄を決定し、生活の場を宇宙に移した! 全ては抗争のためである!」
滾々と訴える。
「過去の怨恨に捕われ、ただ復讐の徒となった首脳部は我ら同志の生活など思慮の外だったのだ! かの地に親類を残してきた者もいよう! 愛する者を残していかなくてはならなかった者もいよう! そんなことは構わず一方的に判断は下された! お前たちの大切な者は今どのような扱いを受けているか想像できるか?」
アクス自身は新規立ち上げの試験居住地へと連行されて、自分たちが住む都市建設に従事していると薄々聞いている。当然その情報はほとんどの者に秘匿されていた。負ければ悲惨な末路が待っているという論調の阻害となるためだ。
「そんな決定を下した首脳部に俺は疑問を感じていた! それが正しいのか、と!」
切り捨てて問題無かったという本音を隠して扇動する。
「その首脳部は今度は何をしようとした? この宇宙生活の場をも放棄しようとした! また我らの生活を奪おうとしたのだ! 許しておけるものか!」
「アクス同志の言う通りだ!」
賛同の反応が僅かながら上がってくる。
「だから俺は正義の鉄槌を下した! 無能なる首脳部を排除したのだ! 次々と生活の場を奪うのなら、やっていることは侵略者と同じだろう? そんな命令になど従えるものか!」
「同志の英断を讃えよ!」
賛同者は論調に酔い始めている。
「我らが命を賭して求めているのは未来である! 決して一時的な勝利の美酒ではない! それさえも首脳部に独占されるだけではないか! 今こそ真に立ち上がる時だ!」
「おおー!」
声はどんどんと大きく成長しつつある。
全てはアクス・アチェスの目算通りに進んでいた。
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