破壊神のさだめ(後編)(7)
「この俺がぁ!」
追いつ追われつの戦況が続いている。アクスがハイパーカノンの間合いを取ろうとすれば白いアームドスキンは近接戦闘に持ち込もうと急接近してくる。中距離で歪曲ビームで翻弄しようとすると固定武装の光輝の筋を引かせて後退していく。かと思えば、遠く光の砲身を生み出して狙ってきているので距離を取り過ぎるわけにはいかない。
(翻弄されているというのか!)
苛立ちだけが蓄積していく。
(決め手に欠ける。だがな、手のうちをさらしたのはお前も同じだ)
(これでは埒が明かん)
一進一退の攻防だけが続く。また疲労からの眩暈が頭を回りにくくさせてもきている。
機体を突進させてリヴェリオンへ肉薄する。歪曲場近くであれば頭上や足下からの砲撃も可能。そうして隙を作ろうとするが、白い影は危険を顧みずに更に踏み込んできた。ビームカノンの砲口が歪曲場内へも挿し込まれてくる。
「くっ!」
そのビームは掴めない。
「いやらしい攻撃を!」
「その機体のほうが余程いやらしいと思うけどね」
「お前の戯言になど……!」
その時、コクピット内に着信音が鳴り響く。ジレルドーンからの通信だ。
「敵機に侵入され防御磁場を消された! 防衛に戻れ、トランキオ!」
「なんだと!?」
先ほどの突入部隊の目的に初めて気付く。
「そんな暇はない!
「要塞が落ちれば敗北だぞ? それでは……、待て!」
相手が沈黙する。
「司令部が艦隊による離脱を決定した。突進してくる敵艦隊にジレルドーンを衝撃させる。艦隊の防衛をせよ、だ」
「……了解だ」
(またか!)
アクスは歯噛みする。
(何かあれば落とす、衝撃させる、だ。司令部の老害どもは芸が無さ過ぎる。耄碌した連中に俺の未来を託せるものか)
彼の中で決意が固まった。
二斉射して白いアームドスキンを遠ざける。また光の円筒を形作っているが、無視してトランキオを反転させた。
「用ができた。お前の相手は後回しだ」
北天方向へと移動する。
「追ってくるのは勝手だが、艦隊が突入しているぞ。あれを沈められたら困るのではないか?」
「分かってるよ。仕方ないから時間をあげよう」
「言っていろ」
リヴェリオンも転進すると足下へと加速していった。艦隊防衛へと回ったのだろう。いくらかの時間を稼げる。
要塞北天に機体を向けると隔壁装甲板が開きつつあった。そこに司令部代わりに係留されている戦艦ロアンドラが姿を見せている。
早くも接続されていたケーブルが外されドック内でうねっている。もう発艦する気でいるらしい。
「おお、アクス、来てくれたか」
「ガルドワの命知らずどもめ。常識を無視して特攻をかけてきおったわ。予想外のことに対応が遅れて要塞が機能せん。離脱支援を頼むぞ。ここからは艦隊戦だ」
「ふむ……」
(ターナ
アクスはほくそ笑む。
(戦況も読めん愚か者には見合った最期をくれてやろう)
徐々にドックから出てきた艦隊旗艦へと照準を合わせる。
「では、そろそろ退場願えますかな、総帥殿」
嘲り含みの声で伝え、未だ防御磁場を展開していないロアンドラの機関部へと一撃をくわえる。
「何をする、アクス!」
「お分かりいただけないか? 将来展望のない貴殿らに名誉の死を差し上げようというのだ。ありがたく受け取るがいい」
「なに!?」
突然の背信行為に驚愕しているらしい。
「何が不満なのだ? 我らは勝利への道筋のために腐心し、一部敵勢力とも通じて勢力拡大を図ってきた。貴様にも十分な環境を与えてやったではないか!」
「不十分なのだよ。貴殿らの提示する未来はひどく希望的で実効性の怪しいものだ。俺からすればほとんど妄想の域に達しているんじゃないかと思えるほどにな」
「あの厳しい環境下で希望を語らずどうして人を導いていける? 貴様のように戦闘に特化した人間には理解できない苦労があるのだ」
言い訳がましいとしか思えない。
ドック隔壁の外側で出航を阻害するよう位置取りする。今更防御磁場を展開しても遅いかもしれない。トランキオの砲門は更に数本のビームを放ち、艦の各所へ直撃が突き刺さった。
「崇高な理想だとでも言いたいか? それをありがたがってるのは貴殿ら一握りの者だけだと解れ。ほとんどの人間は厳寒の地で雌伏の時を耐えてきたのだ。敵を排除し、生活を安定させるのが先決だと思っている」
それがアクスの周辺の人間が語る現実だ。
「わ、分かった! 考慮する! まずは攻撃をやめろ!」
「いや、本当に理解はできんさ。幼い頃からぬくぬくと育った貴殿らにはな。では、さらばだ。
「アクーっス! 裏切り者めー!」
最後に全八門のビームを艦橋周辺に浴びせた。嘲笑する彼の目の前で各部から爆炎が噴き出している。
旗艦ロアンドラは天頂ドック内で大きな光球へと変じていった。
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