破壊神のさだめ(後編)(9)

「首脳部の罪はそれだけではない!」

 根拠としては弱いと感じたアクスは主張を続ける。

「敵と通じていたのは暗黙の了解と言っていいだろう! しかし、それで良いのか? それ無くば生活が成り立たなかったのも事実! ただし、代償も大きい!」

「皆、同志の言葉に耳を傾けよ!」

「敵の一部はこの抗争を実験に用いようと考えたのである! それは何だ! 実験の材料にされたのは我らの命である! お前たちの家族の命である! 昨日まで肩を並べて戦ってきた戦友の命である! かけがえのない同志の命を生活の糧の代償にするのは間違いだと俺は思う!」


(心にもないことを)

 我がことながら内心で嘲笑する。だが、聴衆からの反応は大きい。


「このアームドマヌーバ、トランキオも敵の技術でできている! それは何を意味するか?」

 その疑問を払拭しておかなくてはならない。

「手にするべき人間のところへ技術も集まってくるということ! 未来は我らの復活を望んでいる! 条件は整いつつあるのだ! トランキオこそがその象徴である!」

「我らをお導きください、アクス同志!」

破壊の槍トランキオは必ずや憎き侵略者に破壊をもたらすであろう! 俺に従え! この戦いを勝ち抜き、正しい未来へと導いてやろう! 奮起せよ!」


 共用回線が轟々と渦巻く。アクスに対する歓呼の声が大勢を占めていた。戦闘も激化の様相を見せ始めている。


(それで良い。新時代の指導者が誰なのか分かっただろう? 俺のためにその命を燃やし尽くせ)

 発信を終えた彼はほくそ笑む。


 そのためにも、まずは倒さなくてはならない敵がいる。


   ◇      ◇      ◇


うたってる、謳ってる)

 ユーゴは内心で苦笑する。


 放ったブレイザーカノンは目視で確認できるほどの破壊痕を与えている。しかし、こうも扇動されたのではザナストがダメージだけで降伏を決断することはないだろう。


(心にもないことを)

 奇しくも本人アクスと同じ感慨を抱いている。

(僕はこいつほど選民主義に固まった奴を知らないけどね)

 数少ない接触からも簡単に読み取れる本音だ。

(まあ、いいや。これで話は簡単になった。あいつを墜とせばザナストは総崩れになる。そのトリガーを自分で引いたんだって分かってない)

 やるべき事が一つに収斂していく。


 あまり時間は無いらしい。アクスは再びやってくるだろう。

 かなりの数の敵機を屠っても艦隊の前進を阻もうと次々襲い掛かってくる。防御磁場の消失で及び腰になったが今ので息を吹き返してしまった。

 フォア・アンジェのアームドスキンが押し気味に進め、アイアンブルーの部隊も盾になるように削りにいっているが厳しい状況なのは変わらない。


(できれば艦隊近傍では戦いたくないんだけどさ)

 戦況が許してくれそうにない。

(離れて迎撃するにもリスクが大き過ぎる。いっそのこと要塞のほうを先に片付けたいくらい)

 突入部隊がまだ離脱に手間取っており、底部付近への攻撃は手控えしていた。


「もう少し掛かりそう?」

『内包艦隊の予備戦力を投入されたようだ。頑健な抵抗を示している』

 防御磁場の消失でリヴェルも内部の監視が可能な状態にまでなっていた。

「背中を脅かしてやれば崩れるかな。正面寄りに大きめの対消滅炉ジェネレータはない?」

『探そう。有ったな。ターゲットを出す』

 瞬時に応えてくれる。

「よし。エドさん! レイ! ちょっとお願い!」

「少年、トランキオがくるのなら動いてもいいぞ」

「そうもいかない。中を揺さぶるからしばらく後ろの警戒よろしく」

 レイモンドが「任せなよ」と言ってくれた。


 息を長く吐いて集中する。フランカーの集束磁場がレベルを上げて光を纏い始めた。筋を引いて飛ぶと艦隊の上方へと移動する。


「いけ」

 リヴェルが示したターゲットに向けてトリガーを落とす。

「届けよ」

 高集束ビームが横切ろうとしたグエンダルを両断、爆散させるが目的はそれではない。

「どのくらい維持できる? 深さ的には?」

『可能である。ただし、しばらくは冷却しなければ使えまいぞ』

「問題ない」


 要塞装甲板の溶解した穴からビームが侵入していく。コクピット内ではフランカーの加熱警報が鳴り響いていた。ユーゴは「持ってくれよ」とトリガーボタンを絞り続けている。


『計算上は達したはずだ』

 フランカーが自動でダウンすると同時に紫髪のアバターが伝えてきた。

「信じる。エヴァーグリーン、敵機が怯んだら速やかに離脱指示を!」

「こちらエヴァーグリーン、了解だ」

「間に合え」


 装甲板が膨れ上がり、爆炎が噴出してきた。内部では対消滅反応で大穴が生じている。敵の後背をかなり騒がしたはずだ。

 閃光が上がった途端にエヴァーグリーンのオペレータも部隊回線に吠える。これでアームドスキン隊は離脱してきて艦隊の警護は強化され、ユーゴはアクスの対応ができるはず。


「く、フランカー!」

 大口径ビームに気付き、少年は反応する。

『冷却中である』

「しまっ……!」

 ビームはオルテーヌの右舷を貫いていった。


(目立っちゃったか! 今のは僕を狙ってた)

 カウンターでブレイザーカノンを当てようとしたが冷却インターバルで発射できない。


「オルテーヌ大破!」

「ダメージコントロール急げ!」

「退艦準備!」


 命令が飛んでにわかに回線が騒がしくなる。すぐに爆散することはなさそうだが、右舷後部への被弾だ。機関に影響が出れば沈む可能性は高い。


「アクス!」

「何を遊んでいる。容易だぞ、破壊神ナーザルク


 再び大口径砲の砲門がエヴァーグリーンを狙っていた。

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