第十六話

破壊神のさだめ(後編)(1)

「……以上の分析から、敵要塞ジレルドーンの装甲強度はあまり高くないと思われます。基本的に防御磁場の内側に入ってしまえば通常のビームカノンでも相当の損害が与えられるでしょう」

 取り纏められた情報をラティーナの秘書官ジャクリーン・ピーグリーが説明していく。


 今は幹部ブリーフィングの最中。機動要塞攻略作戦は三日後に迫っている。

 幹部ブリーフィングで伝えられた情報と作戦は各艦の艦長及びアームドスキン隊長によって持ち帰られ各々の部隊へと伝達されるのだ。そこで上がった意見は吸い上げられて微調整されることもあるが、大筋の決定はこのブリーフィング中に行われる。


「特にこの底面から背面に掛けて、遊星砲弾が接続されていた部分は最後まで精製プラントが設置されていたと予想されます。そこには数多くの搬入出口が設置されていたはずで、装甲も薄めになっているのではないかと考えられるそうです」

 彼女にしたところで説明進行役を任じられただけで、オービットから渡された資料を読み上げているだけである。

「こちらから内部に侵入できれば防御磁場発生装置もしくはエネルギーを配給している発生器ジェネレータの破壊も容易ではないかとのオービット副司令からの提案です」


 アームドスキン部隊の数的劣勢は否めない。である以上、ザナストを降伏に追い込むには敵部隊の撃破よりは要塞機能の低下を目指すべきだと考えられる。

 要は、防御磁場さえ剥いでしまえば大規模な破壊が可能で、それにより降伏を迫れるだろうという作戦。その為の部隊布陣を説明していった。


「では、敵アームドスキン部隊を引きつけるのがフォア・アンジェ三隻の戦闘部隊。エヴァーグリーンの部隊がその隙に要塞底面へと取り付き侵入工作を行います。アイアンブルー部隊はオービット副司令の指揮下で当面は敵部隊と交戦。随時、必要な個所への投入を予定しています。宜しいでしょうか?」

 各隊に確認を取って纏められたのがこの形だ。

「はーい! 近衛隊はいつも通り直掩で良いのかな?」

「ええ、そうなっております」

「本作戦では少し厳しいわ。直掩はぎりぎりの数まで絞りますし、要塞の防御磁場が解除され次第全艦で突貫をします。その場合、戦闘宙域を横切るつもりですので警護お願いしますね」

 レイモンドの質問にラティーナが捕捉を付け加えて説明し、それを聞いた彼は「ひゃー!」と悲鳴を上げた。

「無茶しますね、プリンセス」

「その時はもちろん友軍機にも援護をお願いします。ですけど一番頑張ってほしいのは貴官ですよ?」

「りょーかいでっす!」

 エドゥアルドの拳骨を受けつつ敬礼を返している。


 少し緩んだ空気にジャクリーンも一息ついた。もう少しは詰めの討議が行われるだろうが大筋は決まったようなものである。


「近衛でもユーゴは外れるんでしょ? 完全に遊撃かな?」

 作戦中に名前は出てきていない。そもそも居るはずのこの場に居ない。

「基本的にはうちの部隊に組み込むことになっている。敵を正面から引き受けるのだから、当然そこに含まれているであろうトランキオを相手せねばならない。それは彼にしかできないだろう?」

「あー、そうですねー」

 もう一人の副司令フォリナン・ボッホに説明されて納得したようだ。

「出来れば突貫の時くらいは帰隊して欲しいもんですけどね」

「心配しなくても間違いなくエヴァーグリーンの直掩に回るだろう。司令官閣下が居られるのだからね」

「はーい、理解しましたー」


 ユーゴがそんな危ない橋を渡るラティーナを警護しないわけがないだろうと彼女も思う。それまでに敵の中核になるであろうアクスのトランキオを撃破できているか否かが重要であろう。


「それは本人には?」

「わたくしのほうから……」

「今聞いた」

 スライドしたドアからユーゴ本人が入ってくる。

「ごめんなさい。ちゃんと伝えるつもりだったの」

「いいよ。僕の行動原理はみんなのほうが把握しているみたいだし」

「集合を通達したはずだが遅刻の謝罪もないのか?」

 オービットが咎める。

「無理言わないで。その情報を受け取ったのは帰ってからだよ」

「君のσシグマ・ルーンは通信を受け取れない状態だったのか」

「うん、艦を離れていたからね。ちょっと野暮用で」

 嫌味は全く響いていないようだ。

「一応顔を見せておいただけだよ。どうせ僕にやらせたいことは決まってるんでしょ? アクスにぶつけてトランキオ葉っぱを墜とせ、だよね」

「その通りよ。でも近衛の任務はお願いね」

「……アル・ティミスに乗るつもりなんだね」

 ユーゴが近衛として働く場面の筆頭になる。

「ええ、最初だけ。皆に戦う姿勢を示さないといけないから。もう一つは状況次第だから後で説明するわね」

「分かった」


 ユーゴはサーバーの無重力タンブラーを取って口を付けると、ジャクリーンの横までやってきて情報パネルに見入る。その右肩では紫髪のアバターが頷いており、左肩のチルチルも真似をして腕組みで頷いていた。


「ずいぶん無茶をするね。こんなに大胆に艦隊を動かすとは思わなかったな」

 オービットに向けて感想を述べている。

「これは僕の忠言を受け入れてくれたと思っていい?」

「いや、このくらい思い切った作戦でなくては勝利は掴めないということだ。君が言いたい例の策だったら予定に組み込まれている」

「やれやれ」

 ユーゴは溜息をついて肩を竦める。

「諦め悪いなぁ。無駄なのに」

「その根拠は何だね?」


 少年は渋い顔で一度彼女ジャクリーンを見ると、ラティーナとオービットへと視線を移した。

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