破壊神のさだめ(後編)(2)
例の策とは、ザナストとの戦闘終結後に大型戦艦ホーリーブライト拿捕に向かう計画だろう。本社と連動した
「その気になればホーリーブライトは逃げおおせるのも難しくないからだよ」
ユーゴはとんでもない意見を放り込んだ。
「あり得ない。作戦発動と同時に近衛艦隊と第一艦隊が展開して包囲に掛かる。我ら討伐艦隊も氷塊環礁へと急行して包囲の蓋をする。その上に閣下のご指示で警護の第二艦隊もこちらの指揮下に入る。どこにも逃げ場など無い」
「でも氷塊環礁の中だよ。移動すれば位置把握の頼りになるのは重力場レーダーだけなのにね」
ターナ
「十分だ。大型戦艦がどれだけ加速できるという」
「包囲の輪が狭められる前に特務艦隊が邪魔するよ。その間にホーリーブライトは移動して雲隠れする。重力場レーダーからも逃れてね」
「不可能だと言っている」
技術的に重力場レーダーから逃れる術はない。
「それどころか光学観測もできなくなる」
オービットが瞠目する。
「環礁に運び込んだ資源衛星か!」
「え? でも大質量の傍で重力場レーダーを誤魔化しても光学観測からは逃れられないんじゃない?」
「それがただの資源衛星ならね」
ラティーナの疑問にユーゴは不可解に応じる。
「変だと思わなかった? これまで細心の注意を払って極秘裏に活動してきた組織が、こうも露骨に動くなんて。まるで察知してくださいって言っているようなものじゃない」
「それは
「違うんだ。いざとなれば隠れられる拠点があるからだよ。潜伏した
ブルネットの少年は衝撃の事実を告げる。同席している者は驚愕で声も出ない。そこには、なぜユーゴがその事実を知っているのかの意味も含まれる。
「氷塊環礁に拠点……」
オービットの呟きにユーゴが頷く。
「不審だったでしょ。特務艦隊ともあろう隠密活動専門の部隊がそれっぽい痕跡を残しながらゴート圏を転々とする」
「確かに」
「それに目を奪われて大型戦艦の就航と試験航海なんて胡散臭い事案に気付くのが遅れた。更に隠密航行を続けることで、ホーリーブライトへ接触すべくどこかの拠点から移動していると思わせた。氷塊環礁には拠点はないと思うよね」
深読みすればするほどその裏を搔く方策だ。
「……い、いや、氷塊環礁はかなりの頻度で演習が行われる。我らも利用していた。宙図は完璧だ」
動揺しつつもエヴァーグリーンのアームドスキン部隊長が言い募ってくる。正規軍が長ければ何度も演習に利用したのだろう。
彼は全ての氷塊や鉱物小惑星のベクトルが計算され、宙図が更新されると思っている。だいたいの人間がそう思っているだろう。
「その宙図を作成したのは誰だろうね。ガルドワの人間なんじゃない?」
少年の口元は悪戯な笑みに彩られる。
「そこまでも
「別に不思議でも何でもないと思うよ。行方不明になった資源衛星であのジレルドーンが建造されたみたいに、もっとずっと前に行方が分からなくなった小惑星が氷塊環礁に運び込まれて拠点に改造されていたとしても」
「あ……、う……」
彼には返す言葉も無いようだ。
隊長は驚きのあまりに、不可思議な事実に気付いていない。彼女は横の少年を目を丸くして見つめた。
ユーゴはなぜそんな事態の裏側に近い事実を知っているのだろうか? それはただの想定か、或いはどこかで得た情報なのか? どこから帰ってきたばかりなのか?
「ホーリーブライトと接触していたのだな?」
オービットは確信した口振りだ。
「第二艦隊は確認してこないか。挨拶代わりに飛ばせたとでも思ったかな?」
「君がそう見せ掛けた。堂々としていれば何か納得できる理由を探すものだ」
ユーゴは軽く笑って見ている。
「招待に応じてくれたんだから挨拶くらいはしておかないとね」
「気付いてたの」
ラティーナが少年の動向をそれとなく探らせていたのに勘付いていたようだ。もっとも、怪しい動きを見せている自覚はあっただろうが。
「危険よ。組織だってあなたの恨みを買っていることくらい察しているはず。警戒しているでしょう?」
彼女は諫めようとする。
「大丈夫。連中なんて、僕を製品の一つだとしか思っていない」
「無茶が過ぎるわ。お願いだから少しは自制して。そんな危険を冒してまで情報を手に入れてくる必要なんてない」
「それはちょっと甘いね、ラーナ。潜伏してもいいと考えているってことは、そこから地位回復する手段もあるってこと。グループ内にそれだけの勢力が存在しているという意味だって思わない?」
無理にでも組織を認めさせる方法も検討されているという意味。
「それにずっと、いつ何があってもおかしくない場所に居るよ。それなら自分で動いた結果のほうが後悔しないで済む」
(そんなにすさまじい覚悟を?)
ジャクリーンは一連の出来事が少年に悲壮な覚悟を抱かせるに至ったのだと知る。ラティーナもそれに気付き、悲痛な面持ちへと変わった。
反論を封じ込められた一同は、ユーゴが去っていくのを黙ってみているしかなかった。
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