破壊神の秘密(10)

 拿捕のために特務艦へと接近したアームドスキン隊は警備部隊の迎撃を受ける。相手は同じアルミナ軍宙士だが、全てが御者神ハザルクの薫陶を受けていると思って間違いない。しかし、司令官ラティーナからは極力確保の方向で対応する命令が出ていた。


「情報源ではあるが特務の連中はそれなりに腕が立つ。あまり無理をするなよ」

 スチュアートは指示を飛ばす。

「そうは言ってもさ、識別が味方なんだよ。映像ロックオンさえ利かないじゃない」

「でしょでしょ! 加減なんて無理ー!」

「自分の命が優先ですよ、隊長」


 同士討ちフレンドリーファイア防止機能が働く。そういう意味では相手のほうが慣れているかもしれない。

 特務部隊は軍内M警察P的な側面を持っている。犯罪の上の逃走兵や命令違反部隊への対応も命じられることが多い。


「数は少ないが嘗めて掛かったら後悔するって意味だ。確保命令は、味方殺しを心的負担にさせないための司令官閣下の心遣いだって思っとけ」

 ラティーナは後々のことを考えてくれているのだ。

「じゃ、撃墜しちゃってもごめんなさいだね。こっちも必死なんだから」

「でき得る限りで良いんじゃないさね」

「でも、当たんないから!」


 映像ロックオンの補正まで利かないとなると、動き回る機体同士の砲撃戦など結果はなかなか出ない。特務艦の足留めさえままならない状態である。


「厄介だな。それでもできないわけじゃない」

 青と白のアームドスキンが戦闘宙域を駆け抜ける。

「それでいいのよ」

「うん、狙いやすいね」

 リヴェリオンのフランカーが横から推進機ラウンダーテールを貫き、機動力を奪っている。

「いくよ、母さん」

「任せときなさい」

 右膝を撃ち抜かれた特務機がバランスを崩してロールを始めたところへ、接近したアル・スピアが両腕を刎ね飛ばす。


(最初から呼吸はピッタリか。当たり前といえば当たり前だが)


「そういうことだ」

 スチュアートも理解に及んだ。

「映像ロックオンは解除。照準補正をσシグマ・ルーンへ移行」

『σ・ルーン照準に移行します』

 システム音声が確認を伝えてくる。

「ちょっと負荷が増えるが一気に畳み掛ければいい!」

「なるほどねっ!」


 部隊回線でスチュアートの判断の結果を聞いていた僚機も皆が照準を切り替えて対応を始めた。


   ◇      ◇      ◇


「ひゃー!」

 格納庫ハンガー内に響いた奇声に、リヴェリオン担当整備士リズルカは反応する。

「何です、先輩!」

「異常を感知したからママンの乗ってきたデュラムスを見に来たら暴走を始めちゃっているよ!」

「はいぃっ!?」


 見れば、対消滅炉エンジンに反物質が過供給されている。いずれメルトダウンを起こすだろう。


「外部信号で特殊プログラムが走ってる! これは電子戦を仕掛けられてるんだ!」

 特務艦からの干渉らしい。

「止めましょう! 誰かSEの人を呼んで!」

「駄目だって。これは間に合わない」

 リズルカの背筋を悪寒が走る。

「全員、退避させるんだ!」

「それじゃ遅いです!」

 それに右舷格納庫が使用不能になってしまうだろう。彼女は部隊回線に接続すると窮状を訴える。

「エドさん、助けてください!」

「そのままにしていろ。すぐに行く」

「安心してよ、リズちゃん。何も怖くないからね」


 飛び込んできた二機のアル・ゼノンが風を巻いて接近する。保持アームを剥ぎ取りながら両側からデュラムスを引き出すと、そのまま床を蹴って磁場カーテンを抜けていく。

 二機の噴射光が左右に分かれてしばらくすると、そう離れていない近傍で爆炎が花開いた。衝撃波が格納庫内の空気を揺らす。


「間に合った……」

「助かったぁ……」


 リズルカはヴィニストリと抱き合ってへたり込んだ。


   ◇      ◇      ◇


 損害は出なかったものの、エヴァーグリーン近傍で確認された閃光は大きな波紋を生み出す。


「抜かれたの?」

 爆散したのが味方機なのかどうかも分からずユーゴは動揺する。

「直掩、何やってるのよ、あんな至近距離で」

「戻るから!」

「これは仕方ないかな」


 何が起こっているか確認の必要がある。ジーンと肩を並べて艦隊付近まで後退した。


「ごめんなさい、ユーゴ。確認取れたわ。特務機のデュラムスにトラップが仕掛けられていたそうよ」

 経緯の説明を受けた。

「あらら、わたしの責任もあるのね」

「いえ、調査指示を出さなかった私の責任です。おば様は悪くありません」

「ラーナは無事? だったら、いいや」

 ユーゴは割り切る。

「そうでもないかな? 見事に逃げられちゃったし」

「ブレイザーカノンだと沈めちゃうしなぁ」


 異常事態に全艦が静止状態の艦隊に対し、特務艦は長い噴射光を放ちながら急速に遠ざかっていっていた。


   ◇      ◇      ◇


 静かに寝息を立てるユーゴの横に、ジーンは横たわって髪を撫で続けている。


『秘密のままで良いのか?』

 ベッドサイドに置かれたσ・ルーンからリヴェルが現れ尋ねてくる。

「いいの。必要な情報じゃないでしょ?」

『それなら構わぬが』

「うん。やっぱりあれはリヴェルだったのよね?」


 ジーンとて特務からの要請に二つ返事で答えるほど迂闊ではない。なぜ請けたかといえば、或るメッセージを受け取ったからだ。


『要請に応じるがいい。汝への福音となるであろう』

 その結実が彼女の横で眠っている。


「感謝してるのよ。これほど素敵なプレゼントが届くなんて。ゼムナの遺志はこんな形で干渉を続けているの?」

『いや、我らは観察者にして補助者でしかない。時代を導くのは人である』

「未来のためにこの子が必要だったのね」


 彼女の中に時代の子の因子を感じたのだという。その実現を目の当たりにしたジーンは決意をした。自分は組織内部の調査に身を投じようと。逃げおおせられるなんて最初から考えていなかったのだ。


「じゃあ、秘密のままで」


 今は愛し児の傍で眠れる幸せを甘受するのみ。



※ 次回更新は『ゼムナ戦記 伝説の後継者』第十一話「伝説の到来」になります。

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