破壊神の秘密(4)
「あれは確か481年のことだったと思うわ」
今はボブくらいに短くした
十八から軍籍に身を置いたジーン・メレルは、十九歳の頃からザナスト対策部隊に所属し、「
「何の気なしに受けた要請だったけど、結果はちょっと大変だった。だって提供したのは遺伝子サンプルと卵子だったんだもの」
デリケートな内容に皆が沈黙を保つ。
「ユーゴだってもうそれなりの性知識はあるでしょ?」
「だ、大丈夫! 何を言っているのか分かってるよ!」
「そんなに焦らなくたって、これ以上は深い話にはならないから」
ジーンは頬を染める最愛の息子の頭を撫でる。
その後二年間は音沙汰なしで、彼女もサンプル採取のことなど記憶の彼方へと押しやるところだった。当時明らかになったザナストの存在と地下活動も一時的に活発化したものの、急速に衰えていっていた。
ところが実戦にほぼ携わらなくなったジーンの元へ驚くべき届け物がある。それは生後数か月の赤ん坊だった。
「びっくり仰天よ。ガ
当時のことを思い出して苦笑する。
「それは露骨に法的問題のある実験だと思わなかったんですか?」
「思ったわよ。命じれば言うことを聞くとでも思ったのだったとしたら腹が立つもの。だから問い詰めたわ。最初はけんもほろろに断られたけど、赤ん坊の存在を公表してやるって脅したら場所を変えるように言ってきたのよ」
赤ん坊の養育と軍からの除隊を条件に彼女が聞きだしたのは、
現状は様々な問題をクリアしないと実現は困難だとしても、将来的にはガルドワの発展に欠かせない計画になると告げられる。内容的にはかなりあやふやだが、全てが嘘ではないとジーンは思った。
「変だとは思わなかったんですか? そんな代償を払ってまで引き受けるような話とは思えませんけど」
十代の娘にはその時の彼女の感情は理解し難いかもしれないと思う。
「最初から赤ん坊を手放す気なんて欠片も無かったわ。すやすやと眠る愛らしい顔を見て、腕に伝わる重さと温かさを感じて、それが自分の子供だと知ってどうして育てないなんて選択肢があると思う? 愛しくて愛しくて仕方なかったのよ。例え自分で産み落としたのではなかったとしても」
「あ……」
完全に理解は無理だとしても、その強い感情は伝わったらしい。
(赤ん坊を見た瞬間から運命は決まっていたの)
内から湧き上がる衝動は抑えられるようなものではなかった。
卓上に置いた手が優しく握られる。隣に座るユーゴは感無量な笑顔でジーンを見つめている。彼女は母親の自信をもって微笑みを返した。
「それからハザルクの援助を受けながらコレンティオの片隅で暮らし始めたの。もちろん、何の疑いもなくとはいかないわよ? 連中の本当の目的を探ってやろうと思っていたわ」
接触してくる組織の人間を脅したりすかしたりしながら、少しずつ情報を引き出していく。
「その結果、ユーゴは彼らが
「プロト0。フィメイラさんのことですね?」
「あら、知っているの? ボードウィン家は組織に関与していないはず」
だからこそ討伐艦隊だと目して保護を求めたのである。身の安全を確保するためには会長サイドの勢力に身を置くしかない。
そこにユーゴがいたのは本当に偶然でしかないのだ。意図的に彼女に伝えられていなかっただけかもしれないが。
「生前のフィメイラさんと接触できたのはユーゴとそちらのベルンスト宙士だけになります」
三十代くらいに見える女性宙士がマルチナと名乗り、緑色の瞳を伏せて会釈してくる。ユーゴが微笑みかけているところをみると世話になっているらしい。
「彼女からも有用な情報を譲り受けましたが、全容を解明するには至りませんでした。今はおば様だけが頼りです」
「プロト0も亡くなったの? 先天的な免疫異常があって高度な無菌室内でしか生きられない身体だって聞いていたけど」
「うん、フィメイラはちょっとだけしか世界を感じられずに逝ってしまったんだ。だからハザルクのことは許せないと思っているんだけど、母さんが組織側じゃないって分かって安心してる」
ジーンが偵察的な意図で
(ラーナは情報の擦り合わせと補完のために経緯を聞き出そうとしているのね)
ジーンはラティーナの意図を把握し、何を語るべきか思いを巡らせる。
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