ジレルドット攻略戦(11)
暗い水面に数少ない照明の灯りが揺れ、恐怖感を煽り立てる。上層で行われている激しい戦闘音もここではやや遠く感じる。
いつ水中から飛び上がってくるかも分からない敵機を待つのは緊張感を強いられ喉が渇いて仕方がない。ヘッドレストの横まで伸びているチューブを引っ張ってヘルメットに接続すると、空になっていたパックにドリンクが補充される。吸い口を咥え、ルフリットは僅かに甘いドリンクを吸った。
(慣れてきたもんだ。前だったらフィットバーから腕を外すなんて怖ろしくて絶対にできなかったもんな)
自分がした動作に改めて気付く。それだけ力の抜き入れができるようになったということだろう。
データリンクで表示されるターゲットの移動は思ったよりも遅い。ジェット水流を使えばもっと早く移動できるはず。
(敵だって水中戦闘なんて経験がないんだ。恐るおそる移動してる。怖いのはおれだけじゃない)
衝動的に引きたくなるトリガースイッチに掛けた人差し指を自制する。
「降下してきたのは把握していても、こっちの状態は分かってないはず。必ず偵察を入れてくるわ」
コルネリアが分析している。震える声が彼女も恐怖を振り払うための思索だと教えてくれる。
「遠いとこ、狙って」
「そういうことか」
つい不必要に声を抑える。
大きな水音とともに離れた位置で敵のグエンダルが水上に飛び出す。意識のほうが先に反応したのか、リヴェリオンのフランカーが回転して砲撃。ビームがコクピットを貫いた。
誘爆はせずに、派手な水しぶきだけが飛び散る。それで敵は八機になった。
「今のでこっちの状態は認識されたかな?」
「うん、データリンクが飛んだだろうね」
「ここからが本番だってのかよ」
気合いを入れて目を凝らす。
敵機の動きが早くなった。味方が狙撃されたことで、こちらが位置を把握していると分かったのだろう。回避行動をしている。
「脅しをかけとくか?」
「悪くないね」
一番近いターゲットに狙いを定めて一射。有効打にはならないが、焦りは誘えると思って放ったビームだ。ところが火球が膨れ上がると、青白いターナ光まで広がる。
「当たっちまった!」
「まぐれまぐれ」
「ちょっと刺激強すぎ!」
敵の緊張感が限界を迎えたのか、次々に飛び上がっては砲撃してくる。姿は見えるのだが、今度はなかなか当たらない。直撃をジェットシールドで受けながら狙わなくてはいけないからだ。
「当たった!」
「でかした、コリン!」
「荒れちゃったな」
ユーゴには予想外の状況らしい。
『飛び上がらぬ奴がいるぞ』
「気付いた? あれがアクスだね。決定打を狙ってる」
だが、その状況も利用する。激戦で鍛え抜かれた冷静さと思えた。
「墜とす。二人で持ち堪えられる?」
「やってみせるしかないだろ!」
「隙を突かれるよりはマシかもっ!」
移動しては跳ね上がるグエンダルに砲撃をくわえつつ賛同する。このままではどちらの緊張の糸が切れるか根競べになりかねない。
「じゃ、行くよ!」
リヴェリオンが飛び上がると移動を始めた。ルフリットはコルネリアと背中合わせになる。
「半分があんたの担当だからね!」
「そっちのが少ないし!}
「たまたまだって」
ところが予想外にアクス機を狙ったリヴェリオンのほうへ敵機が釣られる。一斉に移動を始めた。
「ヤバい! 行ったぞ、ユーゴ!」
警告を送る。
「撃って撃って、援護!」
「嘗めてんのかよ!」
援護の砲撃が数機を捉え、水面を割って現れる機体もリヴェリオンが的確に狙い撃ちしている。しかし、潜んでいる最大の敵が近付いてきているのにルフリットは気付いていなかった。
「ルット、うしろ!」
ユーゴの警告で振り返ると、鈍色の機体が着地したところ。
「このっ!」
「わああー!」
コルネリアの放ったビームは容易に躱され、振り向けようとしたルフリットの左手のビームカノンはチャンバーを撃ち抜かれた。弾けとんだカノンが後方で誘爆、彼のアル・スピアを前に押し出す。
「終わりだ」
モニターいっぱいに砲口が映っている。
(やられた! 母ちゃん!)
右手のビームカノンを突き出そうとはしているが間に合わない。が、横合いからのビームがその砲口を吹き飛ばした。反転したユーゴの狙撃。
「立て直して!」
コルネリアが叫ぶ。だが、握り替えたアクス機のブレードが既に振り下ろされようとしている。
「おおおあー!」
一気に集中力が高まるとブレードがゆっくりと迫ってくるように感じた。機体をしゃがませて距離を稼ぎつつ、左手にブレードグリップを握らせて振り抜く。その瞬間に緩やかな時間の流れは元に戻り、鈍色の腕が肘から斬られてくるくると舞っているのが見えた。
(おれが?)
呆けてはいられない。右のビームカノンを突き出す。
「やってくれる」
しかし、肩を撃ち抜かれて腕は力無く垂れ、アクス機はアル・スピアを蹴りつけながら後退を始めた。飛ばされたルフリット機はそのまま水面へと放り出され水柱をあげる。
「くそぉっ!」
「あそこにも通路があったみたい」
「潰して逃げたね。追うのは無理だ」
「逃がしたかぁ。もうひと息だったのに」
彼は項垂れる。
「上出来上出来」
「そうだよ。ルットがアクスを中破まで追い詰めたんだから」
ウインドウからは慰めの声が掛かる。それもユーゴの援護あってのことだ。
(何度も死んだと思ったんだから、おれにしては立派な戦果か)
ルフリットは大きく息をはいて二人に笑顔を見せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます