再びの戦場(10)

 交代の上陸休暇を経て、フォア・アンジェ旗艦レクスチーヌは出航の日を迎えている。上陸部隊の乗艦が続く中、駐機スペースではまだ動き回る機体がある。


「最高だー! すげえぞー! おれ、アル・スピアに乗ってるー!」

 騒いでいるのはルフリットだ。

「黙って慣熟訓練しなさいって! ユーゴはもう艦に戻らないといけないのに付き合ってくれてるんだから!」


 運搬依頼のあったアル・スピア二機は基地の隊長と副隊長に渡されている。慣熟訓練が間に合わなかったので前回の作戦には投入されなかっただけだ。そこへエックネン班長の計らいで更に予備機二機が少年少女へと贈られた。


「お前らみたいな若いのが死ぬもんじゃねえ。そいつなら少しは確率を下げられるはずだからな」

「本当に良かったんですか。こんな心遣いを」

 デネリアは独断専行じゃないかと不安に思っている。

「問題ない。うちの副艦長ができるだけのことをしてやれって言ってる。この後の補給もこっちの申請が全て通っているからな。三機分くらいは組めるぜ。だから気にしなくていい」


 訳あって、今は潤沢な補給が保証されてるらしい。彼が気前がいいのはその所為でもあるようだ。


「嬢ちゃんのは前に坊主が使ってた機体だからな。浮いてたんだ」

「本当!? 大事に使わないと!」

 賑やかで仕方ない。

「僕があんなに壊しちゃったのに、綺麗に直してくれたんだね。ありがとう、班長」

「仕事だ、仕事」


 ルフリットの機体はオリジナルの青と水色だが、コルネリアのアル・スピアは縁取りを黄色くカラーリングしてあった。


「早く自分のものにしなさい! ……って何?」

 サイレンが鳴り響き始めた。σシグマ・ルーンのインカム機能で指令塔を呼び出す。

「どうしたの?」

「敵襲です! レーダーに機影七! ひが……」


 ターナ散布機スキャッターは上空を通り過ぎたところでレーザー砲塔によって撃墜されたが、通常電波はもう阻害を受けているようだ。

 アームドスキンには高出力電波で迎撃命令が伝わるだろうが、インカム程度ではもう繋がらない。


「エックネン班長はもう艦へ。私は発進誘導に回ります」

「距離がある。坊主、送ってやれ」

 この距離なら外部マイクが拾う。


 すぐに答えがあり、フィメイラの手の平が差し出された。それに乗ると、ふわりと浮いた機体が格納庫へと向かう。


(基地は潰したはずなのにどうして?)


 デネリアは混乱していた。


   ◇      ◇      ◇


 警戒しつつ格納庫まで着いたところでフィメイラの光学観測にも敵機が引っ掛かった。モニター内に表示される。


(こんなタイミングで?)

 報復にしては奇妙な間だ。マルチナの弁が間違っていなかったのかと思える。

(早く墜とさないと)

 レクスチーヌには時間がない。


 この時間帯を外せば自転の関係で補給艦とのランデブーが一日遅れになる。補給艦と一緒に来る二番艦オルテーヌと、既に合流している三番艦ルシエンヌに先行してもらって敵艦隊の足留めが必要になってくる。危険度は倍加するので今の離脱は外せないだろう。


 しかし、今回の敵は格違いであった。

 基地からも空母からも迎撃が出るが、機敏に反応して砲撃を避ける。街から離れた空域で乱戦に持ち込むしかなかった。その間にもレクスチーヌは浮上を開始。


(このアームドスキン、あいつが乗ってたやつ)

 アクスが乗っていた新型機ホリアンダルは、グエンダルよりもパワーが上で攻撃力が高い。慣れない敵機に味方は手こずっている。

(それでも!)

 ブレードを叩き付けてきた敵を蹴りつけつつビームカノンで一撃。躱しざまを跳ね上げたテールカノンで撃ち抜く。


「やったな、ユーゴ! 一気に畳み掛けようぜ!」

 ルフリットが息巻く。

「この敵は危険だから気をつけて」

「慣れないアル・スピアなんだから慎重に行くの!」

 コルネリアにも注意を受け、こなれた連携を示している。


 そこへ別の一機が近付いてきた。朱色にカラーリングされていて非常に目立つ。


「やるな。そこの黄色いやつ! なに!? その機体!」

 共用回線から驚きが伝わる。

「ふっ。はーっはっはっは、そうか! お前がそうか!」

「なんだよ!」

「そういうことか! アクスが後退させられたというから、どんな奴が居るのかと思っていたらお前だったのか、プロトツー!」


 その機体も異相だった。頭部には目も無く、基部の上に乗った黄色い透過金属を鎧うように装甲板が一部を覆っている。それも申し訳程度で、中にはセンサー類が浮いているように配置されていた。つまりはフィメイラと同じ構造を持っている。


「それならこの戦力では心許ないなぁ」

 興奮を表すように透過金属に青く紋章が浮かんでいる。

「ここは退こう」


 部隊回線で撤退合図が出たらしく、敵機は退いていく。


「戻って、ユーゴ。宇宙へ上がるよ」

「うん、リムニーさん。あれ?」


 既にレクスチーヌはかなりの高度まで上昇している。僚機も次々と帰投しているのが見えた。しかし、フィメイラの片翼の推進機ラウンダーテールがイオンジェットを上手く噴いてくれず上昇できない。そうしているうちにもう片方も噴き方が細くなる。


「変だよ。飛べない」

「え、ちょっと! 艦長、フィメイラ、上昇不能!」

 黄色いアームドスキンは反重力端子グラビノッツを効かせてゆっくりと降下している。

「ユーゴ、無理! 迎えに出ても今からじゃ回収間に合わない! 何とかならない?」

「ごめんね、みんな。そのまま行って。僕はここで待ってる」

 2D投映コンソールは推進機の異常を示し、ペダルを踏んでも全く反応しない。彼は諦めてそう告げた。

「そうなさい。基地には連絡しておきます。ご迷惑を掛けないようにね」

「はい、マルチナさん」


 フィメイラの異常に気付いたコルネリアたちが受け止めてくれる。そのまま基地へと運んでくれそうだ。


(今狙われたらすぐに死んじゃうな)


 敵機はその様子を嘲笑うように遠ざかっていっていた。



※ 次回更新は『ゼムナ戦記 伝説の後継者』第4話「ゼフォーンへ」になります。

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