再びの戦場(9)

 敵の残存機が撤退した後には、自爆した基地跡の調査が行われる。クレーターと化しているが何もかもが焼けてしまったわけではない。


 その結果、この場所では旧地下都市での資源採取が行われていたようだ。ザナストは各地で同様のことをしている。

 ゴート本星そのものの地下資源は掘り尽くされたと言っていい現状だが、それだけに旧都市にはリサイクルできる資源が集中していたのも事実。地表の散乱してしまった資源を掻き集めるのは手間が掛かるが、人工氷河期で人の住めなくなった地下都市から採取するのは難しくない。


 ガルドワ軍もそれを把握してはいるものの、惑星上に無数に存在した地下都市全てを監視下に置くのは不可能。そこで採取される資源でザナストが兵装を整えていると分かっていても対策ができない状況である。


「ホフマン司令、やはり記録類はすべて失われているようです」

 レクスチーヌからの中継データを元に、チムロ・フェン基地で指揮を執っていたマルチナはアームドスキン隊からの報告を伝える。

「それだけは渡したくなかったようですわね」

「こちらが望んでいるものは向こうさんは渡したくない。仕方ないでしょうな」

 本拠地であろう搬送先や経路は絶対に隠したいだろう。

「ただ、車輛での逃走が確認されています。その点が気掛かりといえば気掛かりなのですが」

「車輛での移動が可能な距離だと言いたいのですかな?」

 彼女がその可能性を示唆したのをスレイはきちんと汲み取ってくれる。

「エアクラフターが迎えにくるのかもしれませんからな。そう考えるのは早計かもしれませんぞ。無論、可能性は心に留め置きますが」


 車輛にしても、燃料電池車の走行距離は数千kmに及ぶ。論拠としては少々薄い。


(そうだとすれば、今回の散発的な攻撃は何から目を逸らしたかったのかしら?)

 マルチナはそう考えてしまう。


 彼女の予想は、ここからの広範囲の哨戒飛行は控えさせたかったのではないかというものだった。攻撃があるぞと思わせて、戦力を移住地に縛り付けておかなければならない理由があると思ったのだ。

 ザナストの重要施設が近傍に有ると考えれば辻褄が合う。時間があれば調査を続行したいところだが、ここは次の作戦へと行動を開始するしかない。


「ともあれご協力感謝いたします。これで当移住地の住民も安心して眠れるというものです」

 司令の立場では援軍をいつまでも拘束するわけにもいかない。

「いえ、お役に立てて幸いですわ」


 指揮下の上陸班が任務を完遂できたので、それは本音であった。


   ◇      ◇      ◇


 久しぶりに帰宅したルフリットとコルネリアは家族と団欒の時を過ごし、翌日に休養中のユーゴをチムロ・フェンの街に呼び出していた。

 二日後にはレクスチーヌは任務へと向かわなくてはならない為に基地を離れる。その前に子供同士で遊んでおこうという話になったのだ。


「ね、ここのパンケーキ、美味しいでしょ?」

 コルネリアの誘いで入ったスイーツショップには女性客ばかりが目立つが、男性客でも少年の二人はそう肩身の狭い空気はなかった。

「本当に美味しいや。このカラメルも花の香りがして爽やかな感じ」

「分かる? 人気なんだー。基地詰めの間も友達に何度も誘われたけど来られなくて悔しかったの。今日は思いっ切り食べてやるんだから!」

「悔しいのは分かったから、あまり長居は勘弁してくれよ」

 ルフリットは居心地悪そうに尻を動かしている。

「なによー、ユーゴは快く付き合ってくれてるのにルットったら!」

「こいつは女顔だから平気だけど、おれは何か言われてそうで辛いんだ」


 実際に注目を浴びているのは愛らしい顔立ちのユーゴのほうで、被害妄想である。コルネリアは気付いていたが言わないでおいてあげた。


「平気よね、ユーゴ」

 彼と仲良しアピールで自慢する。

「うん、大丈夫だよ、ルット。サーナもそう言ってるし」

「え?」


 あらぬ方向を向いて微笑むユーゴを不審げに見る。ところが何も無かったかのように彼は話を続けた。


   ◇      ◇      ◇


「あの、サーナってどなたか知ってます?」


 基地に戻ってコルネリアは格納庫ハンガーに居たペリーヌに尋ねた。気になって仕方なかったのだ。


「ちょっと思い付かないわね。誰に聞いたの?」

 ピンと来なかったようだ。

「ユーゴが今日、話の途中で……」

「ああ、ユーゴくん? それだったらたぶんサディナ嬢のことね。あの子の幼馴染だった女の子のことよ。彼女のことを聞いたの?」

「いえ、話し掛けているふうだったので、誰なのかなーと思って」

 ペリーヌの眉根が少し寄る。

「話し掛ける? きっと勘違いよ。親しくなった君たちと話してて、昔に帰ったように感じたんじゃない? それで言い間違えたんだと思うわ」

「そうなのかな? それで、そのサディナって幼馴染は今どこに?」

「亡くなったらしいわ」

 コルネリアは息を飲む。

「レズロ・ロパがテロ攻撃を受けた時、あの子の目の前で……。それからはずっとアームドスキンに乗ることに執着してるみたい。よほど悔しかったんだと思うの」

「そうだったんですか……」


 言い間違いだとかそんな感じには思えなかったが、あまりに自然に口にしていたのでそうでは無いとも言い切れない。煮え切らない思いを抱えたまま、彼女は礼を言ってその場をあとにした。


(好きだったのかな?)


 コルネリアの中の乙女心が少し疼いた。

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