再びの戦場(8)
翌日、風はかなり収まってきたが雪はまだ降りしきっている。分厚く根雪が残っているはずの雪原に、敵基地があるようには未だ思えない。
しかし、レクスチーヌとのデータリンク用プローブを設置すると同時に撃ち込んだ音響観測機は、地下で何らかの活動が行われているのを示していた。
(本当だったんだ)
コルネリアは改めて、雪原にしゃがみ込んでいる黄色いアームドスキンの背中をまじまじと見る。まだ数日の付き合いとはいえ、とてもそんな特異な少年には見えなかった。
「ターナ
部隊回線にフォア・アンジェの隊長スチュアートの声が流れてくる。
「攻撃準備」
「了解」
基地隊の隊長からも指示が飛び、彼女も気を引き締めた。
フォア・アンジェの二十五機と基地の十二機。総数三十七機で包囲している。地下基地がよほどの戦力を持っていない限りは厳しい作戦ではないはず。
ただ、雪原のどこから出てくるかは分からない。焦点を結ばずに視野を広く取って、いち早く敵機の出現を確認できるようにする。
視界の中でフィメイラが挙動を示し、ビームカノンの砲口を雪原へと向けている。ターナ
その一本をユーゴの放ったビームが貫く。弾けとんだザナストのグエンダルが爆炎を内から解き放ち、青白いターナ光に包まれた。
(狙撃した? 出てくるの分かってたの?)
コルネリアは目を瞠る。
敵機はそれで気勢を削がれたようだ。飛び上がり様に砲撃を仕掛けるつもりが、出際を狙撃されたのは誤算だろう。それが回避機動を取る動作に表れ、命中率を下げる。攻略側は余裕をもって対処できた。
「いくぜ」
ルフリットのデュラムスが飛び出し、フィメイラも動いたので彼女も続く。
「ポイントマークしたやつ」
「おう!」
ユーゴからのデータリンクで敵基地の出撃口の一つを目指す。雪の所為で光学観測もままならないがプローブからのデータは十八機の敵機を示している。
「思ったより多いよ!」
「まだ来るけど減らすから大丈夫」
フィメイラの
(上手い。取り回しの難しい一体型武装も自在に使ってる)
機体を振らないと照準できない一体型武装があまり普及しない原因がそれだ。カノンインターバルを減らすことができても、飛行機動の中に砲撃照準を組み込む勘が必要になる。
その点、ビームカノンなどの銃器型武装は砲撃方向など、極めて自由度が高く好まれる。威力などは持ち替えで調整が利く。
「おりゃあ!」
掛け声とともに斬り掛かるルフリット。
「横からも来てる!」
「マジかよ!」
大量の雪粒を透かして見える噴射光に気付く。が、光芒が走ると、衝撃音がして爆炎が広がった。
「気にしなくていいよ。その為に三機で行動してるから」
「頼むぜ、ユーゴ!」
「わたしもいるからね」
ただでさえ鮮やかな黄色いボディのフィメイラは目立つ。
「いただき!」
ブレードを持つ敵機の腕を斬り飛ばし、そのまま胴を薙ぐルフリット機。
「こっちも!」
コルネリア機も雪を割いて迫る紺色のアームドスキンに直撃させる。
「ジェットシールドは最低限にね。的にされる」
「何言ってるんだ。お前が一番目立ってる」
「そうよー。ユーゴの所為で大変なんだから」
降りしきる雪の中では光る盾は砲撃目標になってしまう。狙撃を受けないようにするには使わないほうがいいとユーゴは言っている。
二人はそれ以上にフィメイラが目立って敵が来ると揶揄している。もちろん冗談である。
「ごめんね!」
フィメイラは突っ込んでブレードを振り下ろす敵機の腕を左腕の甲で受けると、そのまま掴み取って引っ張り、体勢の崩れた胴に直接ビームカノンを当てて撃つ。
固い標的に衝撃した重金属イオンビームは、収束度を失いつつ機体内部で拡散して破壊。射入口に数十倍する射出口を開けて大量の部品を撒き散らす。ユーゴが右足の蹴りで吹き飛ばすと爆散して衝撃波を周囲に振り撒いた。
「かなり減った? このまま制圧できると思う?」
コルネリアは尋ねる。
「制圧どころか殲滅できるぜ」
「いけない。逃げよう」
「どうしたんだよ、急に弱気になって」
二人が不審に思ってフィメイラを見ると、ビームカノンの砲口で雪原のほうを示している。望遠ウインドウを開いて目を凝らすと、白く塗装した車列が遠ざかっていくのが見えた。
「隊長! ザナストの人が退避してる。ここを放棄したんだ。直上からみんなを逃がして!」
切迫感を持ったユーゴの声が部隊回線を走る。
「何だとぉ! 全機離脱!」
「僕たちも逃げないと」
「行こっ!」
コルネリアは、デュラムスの手でフィメイラを押すようにして加速。退避方向を指差すルフリット機に続いて離脱した。
すると、地の底から響くような破砕音が突き上げてくる。雪はもちろん、土砂も地下に有った物も何もかもを噴き上げて巨大な爆炎が膨れ上がった。
ターナ光が収まると直径1km以上あるクレーターができあがり、中央付近から煙と湯気が立ち上っている。
「自爆しやがった」
ルフリットの声には呆れの色が混じる。
「見られたくないものがあったのかな?」
「調べないと分かんないね」
湯気に霞む足下を三機はしばらく見下ろしていた。
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