再びの戦場(7)
人工氷河期は緩みつつあるものの、赤道近くに位置するチムロ・フェンでも空を拝める日は少ない。貴重な雲の切れ間に人工衛星からの電波及び光学観測が行われるのだが、近在すると思われるザナスト基地は発見できていない。
それはおそらく雲の厚い大雪の日か、今日のような吹雪の日に主に活動しているからであろう。攻撃を受けるのもそんな日に集中している。
(マルチナさんは移住地が攻撃を受けるのには何か理由があるはずだって言ってたんだよね)
見慣れた吹雪の中、フィメイラのコクピットでユーゴは思い起こす。
何らかの欺瞞行動である可能性が高いと彼女は主張していた。
移住者を排除したいという原理的思想に基づく行動にしては攻撃の規模が小さい。恐怖感は煽るが危機感に至るほどでもない。
秘密裏に勢力拡大を狙っているのであれば、攻撃そのものの意味がない。行動しないことが自分たちの存在を隠す最も有効な手段。
以上から考察すれば、この散発的な軍事行動には何かから目を逸らしたい意図があるのではないかとマルチナは上陸クルーを前に論じた。それが何かは分からないが、基地を暴いて調べれば何か出てくるかもしれないとの結論に達する。
(ここでの作戦は一週間くらいで済ませたいって言ってた。フォア・アンジェの全力を投入する作戦が決まったって。他の艦と合流しなきゃいけないみたいだし)
四隻の戦闘空母が軌道上で確認されたらしい。ツーラに向かってくるならガルドワ軍が対応するが、今のところは目的が不明。試験移住地を強襲するのか、はたまた別の作戦に就くのか分からない為にカウンターチームの出動要請となったようだ。
旗艦レクスチーヌは、フォア・アンジェの二番艦オンディーヌと三番艦ルシエンヌと合流し、この怪しげなザナスト戦力の排除に当たらなくてはならない。その要請が来た為に想定したより早期解決を迫られている。
「こんな日に飛んだって何も見えないって」
探索シフトが変更されて天候も考慮されない状況。それにルフリットは文句を言っているのだ。
「レーダー、レーザースキャンはともに危うげ。視界も不良だけど測位は正常。データリンクは正常だし通信阻害も無いから計器飛行できるでしょ、ルット」
「できるったって、あとで観測データ洗ってもらわないと何も分からないじゃん!」
「文句ばかり言わない! 早く敵基地を見つけて対処してもらわないと、また叩き起こされる日々に逆戻りだけどいいの?」
パイロットとして期待されている二人は両親とも離れて基地詰めにされている。この作戦が上手くいけば家に帰れる日も増えるはずなのだった。
「嫌だけどさ」
育ち盛りに睡眠不足の厳しい生活である。
「じゃあ、しゃきしゃき働く。ユーゴは文句ひとつ言わずに飛んでるでしょ!」
「そんなん、コリンが怖いからに決まってる……」
「うるさい!」
ルフリットの悲鳴が聞こえる。ユーゴのところの映像はカットされたが、彼のところには怒りの形相が届いているみたいだ。
(仲良しだなぁ。二人にはもっと普通の暮らしをさせてあげなきゃ)
自分の中の何かと重なって、強い感情が湧き上がってくる。
白く染められた雪原に吹き付ける吹雪で距離感も掴みにくいモニターに透過マップを重ねて飛ぶ。高度や姿勢を
「見つけた」
目を細めて彼方の雪原を見やる。
「は? 何言ってんだよ」
「どうしたの、ユーゴ?」
「マップ、ポイントマーク。地形、レーザースキャンで記録。ガンカメラ映像、高精細モードで保存」
『記録を開始します』
問い掛ける声には反応せず、データ収集を優先する。
「データリンクで経路を示すからついてきて」
「え、いいけど、要警戒?」
「ううん、近付き過ぎないようにする」
言われるがままにフィメイラを追尾した二機のデュラムスも警戒しつつ周囲のデータ収集を行って基地に帰投した。
◇ ◇ ◇
敵基地発見の報にマルチナも腰を浮かせる。状況的には探索は厳しく、天候の回復を天に祈っていたくらいだからだ。
「誰が発見したの?」
「ユーゴなんですけど、データ上では確証と言えるものがありません。本人に確認が必要かと?」
「場所は明確に示されているの?」
「はい、ポイントはマップに落としてあるのですが」
2D情報パネルが立ち上がって明示される。
「地形データ、しっかりしているわね。作戦立案に入ります。決まり次第、ボッホ艦長に最終判断をいただきましょう」
「あの……」
「あら、君たち、どうしたの?」
ルフリットとコルネリアが不安げにやり取りを見つめている。
「俺たちも一緒だったんですけど、何をやっているのか分からないままで帰ってきたんでどうしたもんかって」
「ユーゴは?」
「それが、決めるのは上の人だから休むって部屋に」
「その通りね。君たちも休みなさい」
納得していないようだ。無理もない。
「どうしてか分からないのね?」
二人は頷く。
「彼はレーダー照準も利かない状況で、超長距離狙撃を決めてしまうような子なの。能力は未知数なのよ。私は信じてみる価値はあると思うわ。確実な手立てがない以上、空振りだったとしても問題無しよ」
驚きに目を丸くしたあと、同時に頷き合う辺りはさすがに息の合う友人同士という感じで微笑ましかった。
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