再びの戦場(6)

 三人が格納庫ハンガーで話し込んでいると、自分の身体を抱き締めるような格好で寒さを表しながら、まだ若い女性が駆けこんできた。見れば、また大粒の雪が降り始めている。


「ひゃー、寒っ! さっきまで風も止んでたのに!」

 飾り気のないつなぎジャンプスーツ姿である。下に防寒ウェアは着けているだろうが。

「わーお、見れば見るほど異様よねぇ」

「お姉ちゃん、それは失礼でしょ!」

「そうだぜ、ディニー。専属パイロットがここに居るんだから」

 フィメイラを見上げて歯に衣着せぬ発言をする彼女を諫める。

「え、どこに? 色々聞きたい」

「だからユーゴがそうなんだって」

 ルフリットが肩を叩く少年に視線が動く。

「またまたぁ、歳上をからかっちゃダメでしょ!」

「いや、フィメイラの専属パイロットが坊主なのは本当だぜ」

「ちょ、嘘でしょう、エックネン班長!」

 姉はこの貫禄のある整備士らしき男性に傾倒しつつあるようだ。


 デネリアは唖然としてユーゴを見下ろしている。チルチルに頬をぺちぺちと叩く振りをされているが一向に気付く様子を見せない。


「どして?」

 思考力が怪しげだ。

「もー、しっかりして、お姉ちゃん。ザナストの活動がすごくなってるのはチムロ・フェンだけじゃないみたい。わたしたちみたいなパイロットも増えているってこと」

「それは分からなくもないわ。でも、これに関しては話が別。専用機っておっしゃいましたよね、班長?」

「そいつに関しちゃ色々と複雑な事情があってな、多くは語れん。気にはなるだろうが、詮索はよしておけ。その代りに分かる範囲で触らせてやるから」

 そこまで聞いて赤毛の整備士の目の色が変わる。

「聞きましたからね! 絶対ですよ!」

「嘘は言わん。が、そんなに飛び抜けて妙な構造をしているんじゃないぞ」

 早くも姉は嗜好を掴まれて簡単に扱われつつあるようだ。


(でも、お姉ちゃんの言うことには一理あるよね)

 改めてユーゴに目を移す。


「ねえ、ユーゴって何機くらい撃墜したの?」

 カマを掛けてみる。

「憶えてないよー。三十機は超えてると思う。あと戦艦が二……」

「あ、もういい。大丈夫」


 彼が特殊な才能を持ったパイロットだというのは理解した。そうであるなら、実戦部隊を使った新型開発の対象に選ばれる可能性もあると思える。コルネリアはそう考えることにした。


   ◇      ◇      ◇


 マルチナ・ベルンスト副艦長は、フォリナン・ボッホ艦長とともに基地司令のスレイ・ホフマンと挨拶を交わしていた。

 この後、フォリナンはレクスチーヌに戻る手筈になっている。普通なら総指揮官である彼が離艦して上陸部隊の指揮を執り、彼女が艦に詰めるだろう。しかし、今回は彼女に勉強の機会をと提案され承諾した。

 今後の上陸部隊の指揮及び基地部隊との交渉はマルチナに一任される形となり、重要案件だけ艦長の指示を仰ぐ段取りとなっていた。


「現在の方針では、明日よりアームドスキン隊により探索任務に当たりたいと考えております。それにつき、周囲の地勢を知る基地所属機を付けていただきたいのですが如何でしょうか?」

 初老の基地司令は笑顔で応じる。

「無論ですとも。ようやく戦力不足の厳しい状況が打破されるのですから協力は惜しみませんぞ。隊長に伝えてシフトを組ませます」

「どうかよろしくお願いします」


 父親というほどではないが、歳の離れた相手に慇懃に振る舞われるのに腰の引ける思いはある。それでも気後れしないように彼女は胸を張って握手の手を差し出した。

 その後はホフマンに基地内の案内を受けている。ツーラで見られるような先進的な基地設備ではなく、にわか作りな印象は否めない。それぞれの部署で違う棟に分けられているのも、ずっと戦闘艦勤務の彼女には非効率的に見える。

 だが、空間の限られる宇宙戦闘艦とは違い、十分な土地があることを思えば普通なのかもしれないとも思う。


「あら、ユーゴ」

 食堂に着いたところで見知った顔に出会う。

「あ、マルチナさん。どうしたの?」

「基地内を見せていただいてるの。その子たちは?」

「ここのパイロットなんだって。僕も連れてきてもらったんだ」


 テーブルに着いて飲み物を手にしているのは彼と似たような年頃の少年少女である。


「パイロット?」

 聞き間違いかと思ったが、隣から否定された。

「実はそうなのですよ。人員的にはそれほどまでに厳しい懐事情でして、彼らにも協力してもらっているんです。申し訳ないが優秀なんでね」

「他人事ではありません。あのうちの子もエース級なんです」

「ほほう?」

 ユーゴに関して色々と思惑があるのも事実だが、余所の懐事情を笑えたものではない。


 彼は二人にマルチナのことを話しているようだ。子供同士だけあって打ち解けるのも早いと感心する。


「では、親交も深めているようですし、探索班に関しては彼らで組ませても良さそうですな?」

 ホフマンの言うようにチームワークは重要。

「ええ、そのようにご配慮いただけると助かります」

「分かりました。伝えておきましょう」


 彼女から提案すると、三人は喜んで手を合わせている。一日に数班も繰り出すうちの一班が彼らになるだけだ。特に問題はないと考える。

 これまでの探索で敵の拠点が発見できていないというのは、相当用心深く動いているという意味になる。遭遇戦も可能性は低いと思える。


 3Dアバター同士を輪になって踊らせている三人の様子を微笑ましく眺めながら、マルチナはそんな風に考えた。

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