第13話
事情を軽くハンプに説明して、ついでに宿の主人には今日も宿泊したいと告げる。
訝しげな表情を崩そうともしなかったが、金を払う分には構わないとのことだった。
昼下がりまで特にやる事もなかったので、自身の部屋で備品整理を行う事にした。
緊急用のポーションや、干し肉。きらきらと光り輝く大根と黒光りした銃。
十連ガチャから出たブリオの武器、防具に、エンタルという銃士の武器だ。
「ブリオの物はともかく、この武器なんか使い道がないからなぁ」
黒輝と銘が彫られたマスケット銃を見て、ハンプは目を見張る。
「なんと……その武器は業物ですな。銃がこの世に出てからまだ日は浅いですがその技術を欲しがる人間は多いですぞ」
「そうなのか」
「旦那様、やはりガチャとは空恐ろしい力です。僭越ながら、くれぐれも力の扱い方を間違えぬよう」
やけに警戒しているハンプを横目に「まぁ、この力にも制限があるし気をつけるようにする」と返した。
それにしても、黒輝か。
売れたら胡椒買える分くらいは資金が手に入らないかな。
不埒な事を考えていることがハンプにも分かったのか、「辞めておいた方がよろしいかと」と、注意された。
「このようなマスケット銃を市場に流せば、旦那様はランベルト帝国の関係者と思われます。ますます立場が悪くなりますぞ」
「そのランベルト帝国は、エッツラウプ国とは敵対しているのか?」
「いえ、明確な敵対状態ではありませんが、お互いサンソン砦を挟んで警戒しあっている関係ですぞ」
とてもとても協力的な関係とは言えないと言い放ち、ハンプが難しい顔をした。
そういえば、アプリでも国が三つ出てきたなぁとふと思う。
王国と、帝国と、聖国だったと思うが、主に王国でメインストーリーが進むので強く意識していなかった。
まぁ、キャラの名前や性能を覚える方が先だったしな。俺は悪くない、うん。
「とにかく、その銃を売り払うにしろ今回の騒動を治めてからの方がよろしいかと」
「確かにそうだな」
「……勿論、欲しがる商人は数多にいるでしょう。それだけの価値がこれには御座います」
星四つの武器ね、一応今回のガチャの大当たりではあるんだよなぁ。
だけど、そもそも帰属性があって名前を冠した人物しか装備できなかったのだ。
その為に素材に使ったり、合成して星の位階を上げるくらいにしか使わなかった。
実際に現地に来たら金策手段という選択肢もあったんだなと目から鱗が落ちる思いだ。
アプリ時代は曜日限定のダンジョンや、イベントで金策をしていたのだが、
より、リアルに根ざした方法を取らないといけないってことか。
これは改めて認識をしなおす方がいいなと思うのだった。
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ふと気付けば指定された時間が近づいており、ハンプを宿に残し、足取りは重いままだが詰め所に向かう。
「ふん、ようやく来たか。本来あり得ないことだが姫殿下直々の指名だ。さっさとこちらへ来い」
門番として立っていたエステルの部下らしき若い騎士が、俺を高圧的な態度で出迎える。
流石に不快だったが、今更こいつごときにまともに応対しても仕方がない。
「はいはい、騎士様はお偉い事で」と軽口を返した。
「貴様、先ほどから無礼にも程があるぞ。騎士とは王国を守る要。冒険者風情に侮られては仕事にならないのだ」
「けれど、それならばまずヴェロニカ姫を見失う方が悪いんじゃないのか?」
「……くっ、エステル様を侮辱する気か、貴様」
いや、別にエステルを侮辱したつもりはないんだけど。
確かにヴェロニカ姫様付きだって言ってたから主にあいつの責任なんだろうけどさ。
「はいはい、そこまでだ。俺は別に罪人として呼ばれたわけじゃないだろう?」
「どうせそうなるのは分かりきってる事だ、異端者め」
ばちばちと俺に強い敵意を向けるこいつに苦笑を返す内、大きな扉が見えてきた。
「ここから先に、姫殿下がおわす。無礼を働けばそっ首を叩き切られると思え」
ぎいいと大きな音を立てて扉が開かれると、そこには昨日と替わらず容姿だけは美しいヴェロニカ姫の姿があった。
横にはエステルと騎士団に続き、アンクが控えており、さらに法典を持った見慣れない老人が居た。
「―――この度は、我らの召還に応じていただきご足労でした。"自由の旅人 ヴェリ"よ、呼び出された理由は分かっていますね?」
ヴェロニカ姫が浮かべたその表情は、猫娘がガチャで見せる"例の煽るような笑顔"であった。
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