第8話



「聞いた事があります、遮光、その邪悪を隠すために無属性と偽る人間も多いと……!」


「なるほど、太陽の大いなる光さえ遮る闇、か。……聞くだけでもどこか邪悪だな!」



 エステルが手に持つ騎士剣にぐっと力を入れたのが目にとれた。


 ……いや、初耳だし、ヴェリにそんな設定があったのとか知らんし。


 扉を背にしてもはや、逃げ道は無い。俺も仕方なく腰の剣を抜く。


 テーブルを挟んで、臨戦態勢で向き合う。



「……そもそも、陽光の洗礼を受けれなければ属性は遮光と決まるのか?」


「陽光属性は火・風・水・土の四大元素から独立した属性。対となる遮光以外には無効化されません」


「富も名声も受け取らない冒険者と聞いていたが、どうせ遮光属性にへと関係者への属性転向を迫っていたのだろう」



 冤罪でしかない、いや、冤罪なのかどうかすら分からない所が悲しい。


 だが、ヴェリとしての俺の体が、心が訴えかけてくる。違うぞと。


 だから俺は信じてやらなければいけない。そう。



 ヴェリが単にコミュ障だったことを―――



「違うぞ、別に俺は属性転向なんて迫っていない。確かに個別の仲間は作らなかったが自由を好んだだけだ」


「ほう? 音に聞こえた"自由の旅人"がここに来て虚偽を言うとはな、見損なったぞ」


「なるほど、執拗に洗礼を受けさせたくなるこの気持ち。陽光神様の思し召しだったということですね。遮光などというおぞましい属性は、浄化しなければいけません」



 だから違うと言ってるのに、しかし本当にこいつら聞く耳を持たないな。


 しかし、本当にこの状況をどう覆せばいいのやら分からない。考えろ、考えるんだ。


 そう思った直後に扉から炸裂するような破裂音が聞こえてきた。



「「「!!」」」



 驚愕する二人を横に、俺は後ろを振り返る。


 フードを目深に被ってはいるが、そこから見えるのは黒髪。


 そこには、先ほど教会内で祈りを捧げていた女性信者が立っていた。



「そこの冒険者! 我輩"怪盗 キャットテール・三世"が助太刀致すにゃ」



 そう言って彼女はフードを完全にめくり上げる。


 頭に生えてたのは……猫耳。うん、精巧な作り物だと信じたいけど多分本当の猫耳。


 そしてなによりこいつの風貌に見覚えがあった。



「お、お前はガチャ演出に出てくる猫娘じゃないか!!!」



 そう、こいつは無駄に煽るだけ煽って碌な装備を出さない腐れゲス野郎なのだ!


 演出の一つである、ブリオ……と見せかけて、ブリオ! ……と見せかけて……ブリオ!のループは有名だ。


 本当に殺意しか沸かない。いや、ブリオに他意はないのだが。


 というか別にブリオは星三つじゃないから有料ガチャで出ないし。



「にゃにゃっ、我輩の事を知っているのかにゃ?! いやぁ、参ったにゃ。地道に陽光教徒にテロ活動をしてきた甲斐があったにゃ」



 結構な物騒をのたまうこいつのお陰で、武器を構えるエステルとアンクの顔が一層険しくなった。



「な、な、な……心底から見損なったぞ、ヴェリ! "自由の旅人"の自由とはテロを行う自由と言う事か! このテロリストめ! ぶっころしてやる!」



 どんどんヒートアップするエステル。


 何か気付いたら貴殿から呼び捨てにされてるし、言動に知性が無くなっていってる……。



「もう駄目ですね、これは。陽光の洗礼を何度もかければ真人間に戻ると思いましたがこれは駄目です。腐った根っこは元から断ち切らないといけません、もう駄目ですね。いえ、もう、駄目ですね」



 アンクはアンクで目から光が完全に消え失せた。もはや言葉は通じないと言うことだろう。



「ふふん、陽光教徒なんかに何言われても全然応えないにゃ。我輩の行いこそ正しいと、愚かな君らは知るべきにゃ」



 そう言って、キャットテールはフードの中に手を突っ込む。


 前の二人が警戒して構えると、そこから取り出されたのはまさかの経典である。



「そもそも我輩達の神様は、"光を遮る"神ではないのにゃ。陽光教徒が勝手に解釈してるだけで」


「「!!」」



 まさか、神学論を展開されるとは思ってなかったのだろう、二人はさらに警戒を強める。


 俺はとてつもなく嫌な予感を覚えて耳を塞ぎたくなる衝動を抑える。



「そう、光さえ遮る……そういう名前に似てる事からこの不幸な間違いは始まったのにゃ」



 やめてくれ……やめてくれ……叫びだして逃げたくなる。



「射幸……って言葉を聞いたことあるにゃ? わくわくする気持ち。止められない気持ち。


そう、我らが神の本当の名前は、射幸神」



 逃げ出したい、逃げ出したい、やめてくれ……。



「射幸神、我らの神が司るのは―――闇ではなく、―――ぱちすろにゃ!!!!」



 俺は天を仰ぎ、あまりのしょうもなさに「oh」と口ずさんだのだった。

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