第7話



「すまない、貴殿には先に洗礼について説明するべきだったかもしれない」



 ついつい勢いに流されてしまったのだが、いざ洗礼となった時、


 流石に「ちょっと待ってくれ」と目を輝かしているエステルとアンクに伝えた。



「そう、今回の姫様の事件には秘匿性から、信頼できる人物ではないと依頼できないのだ。陽光の洗礼とは陽光神様からの祝福を持ってして、貴殿の属性や心根を証明するものだ」


「それに、陽光神様の祝福から授けていただくことは良いことづくめなのですよ?


 具体的には免疫力が上がって小さな病気にかかりにくくなったり、自然治癒力が高まります。冒険者の方々で、自ら洗礼を受けに来られる方も多いのです」


「そうだそうだ、ただ、ちょっと属性自体が陽光属性になるだけの話だ。気にする事ではない」



 ちょっと待て、今聞き捨てなら無い事を聞いたぞ。


 確かユニットとしてのヴェリは、無属性だった筈だ。


 無属性はどの属性にも有利は取れないが、逆に不利にもならない。


 どんな敵にもコンスタントにダメージを与えることができる。


 それは明確なメリットなのだ。



「いや、やっぱりそれは勘弁してくれ。確かに陽光属性は便利な属性だが、アタッカーには向かないだろう」



 そう、どちらかと言えば陽光はヒーラーやタンクに向いている属性だ。


 連撃を得意とする純物理アタッカーの俺が積極的に転向するべき属性ではない。



「なっ、いや、確かに貴殿を疑っている訳ではないが、陽光属性はいいぞ!私は元から陽光属性だったが、さらに洗礼を授かってから強くなれた! 背も伸びたぞ!」


「属性変異なんて一瞬ですよ。大丈夫です、天井の染みを数えてる内に終わりますから……」



 な、なんかどんどん聞き捨てならない方向に進んでるんだが。


 じりじりと迫り来る陽光属性二人に俺はついつい席を立つ。



「ほーら、ようこうしんっ! ようこうしんっ!!」



 エ、エステルの目が狂気を帯びている……こ、こいつ、こんなキャラだったのか?!


 俺のスタメンであり大エースだったエステルのイメージがガラガラと崩れ落ちてくる。


 ガチャで引き当てた時の「―――我が名はエステル。この身を持ってして、貴殿の盾となろう」って言葉はなんだったのか。



「初めにチクッとするだけですよ。あ、もう洗礼しちゃいますよ、洗礼。あー、もう洗礼します、何ででしょう。あなたには洗礼したくて堪らないのです」



 アンクの目も相当濁りだしている。あんた、陽光神の信徒で、シスターだろ。


 思わず扉に向かうが内鍵が何故か開かない。



「無駄です、この場は神と交信する神聖な場所。洗礼を中断する要因を極力排除するために、自動に魔法で内外鍵がかかるようになっています」



 チッと舌打ちをして、ぐるぐるとテーブルを挟んでエステルと追いかけっこをする。


 しかし、流石エステルは身体能力が高い。


 ヴェリの能力も鈴木恵介時代よりも相当凄いが、陽光の騎士には到底叶わない。


 扉側に追い詰められた俺に向かい、アンクは手を振りかぶり祝辞を述べる。



「―――陽光神の元に祝福あれ」



 薄い光が俺の体全体包み、背骨を盗み取って替わりに氷を入れたような悪寒が襲い掛かる。


 しかし、バチンッ! と大きな音がして俺の体を包む薄い光が掻き消えた。



「「!!」」



 その光景を見ていたエステルとアンクの二人は絶句していた。


 俺は思わず身構えていたが、気付けば体全体を覆う不快感も消えていた。



「な、なんということですか。陽光神の洗礼を跳ね返す人間など居るはずが……」


「まさか、貴殿は、貴殿は―――」



 ごくりと二人の生唾を飲む音が聞こえた。


 そして、俺から距離を取った二人は戦闘態勢を取る。



「「あのおぞましき、光さえ遮る闇の神、遮光神の加護を受けているというのか」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る