第6話

エステルと連れ立ってメルカトルの街を歩く。


 ハンプは馬車と共に、比較的に感じが良さそうな宿屋に預けていた。


 日常品を魔物単独が買いに行く事は流石に不信感を与えるので、


 宿屋の給仕に依頼して必要な物資を買いに言ってもらうとの事だ。



「そもそも、ヴェロニカ姫が見つかったというのはどこからの情報なんだ」


「今朝方、騎士団の詰め所にそれらしき人影を教会付近で見つけたと連絡が入ったのだ。


 この国では王族以外は持たない特徴的な黒い長髪、風貌といい、


 私はその報告から、その人物は姫様に間違いないと判断した」



 なるほど、このエッツラウプという国では黒髪は珍しいらしい。


 どうやら情報源は教会のシスターと言うことで、教会にも何人か騎士団を配置してるとの事。



「それで、向かうのはとりあえず教会だ。今朝から進捗があったか報告を受けることになっている」


「なるほどな、この街から出てない可能性が高い上に、教会に姫様がまた姿を現す確率も高いと」


「おぉ、確かにそうなのだ。大抵の場合、目撃証言からそう離れていない所にいらっしゃる。


 ……良くそこまで知られていない姫様の習性を知っているな、流石だ」



 適当に放った言葉なのだが、何故か感心したようにエステルが頷いた。


 俺は、放火犯の心理と姫様の心理は多分同じなのかなと不敬かもしれないが思う。


 そうこうしている内に、教会前の門に辿り着く。



「お勤めご苦労」


「はっ、エステル様! 教会には依然姿を見せられておりません!」



 若い騎士達がエステルに向けて敬礼をする。


 その横に立っている如何にも冒険者といった風情の俺には警戒の色を見せてはいるが。



「……それで、エステル様。そちらの御仁はどなたでしょうか」


「あぁ。クリューゲルで名を上げている"自由の旅人 ヴェリ"殿だ。ちょうどメルカトルにへと来られていてな。姫様捜索に協力してもらっている」


「なっ、冒険者に依頼したのですか! 確かに"自由の旅人"の名は聞いた事があります。ですが、僭越ながら騎士団だけでもこの問題は解決できる筈です」



 どことなく敵意を向けられているのには気付いていたが、


 そこには色々な感情が含まれているのだろうなとは見て取れる。


 まぁ、そもそも美人の上官に知らない冒険者風情が立っていたら嫌だろうさ。



「まぁ、そう言うな。姫様に万が一の事があれば騎士団として立つ瀬がない。その為には民間や組合から協力を募ってでも協力者は多いほうがいいのだ。ここまで何度も脱走されては国家としては醜聞であるのだがな」



 エステルは苦笑しながら語る。


 どうやら姫様行方不明はこれが最初ではないようだ。


 何故か壁を蹴破っている姿が幻視されたが、そこまで酷くは無いだろうか流石に。



「……陽光の騎士であるエステル様がそう言うのであれば異論は挟みません」



 ぎっと悔しげに報告を告げられた騎士は唇を噛んだが、


 すぐに表情を戻すと、粛々と見回り業務に戻っていった。



「貴殿には部下が失礼な態度をしてしまって申し訳なく思う。だが、国家の安寧を守る騎士団としては、身内の起こした問題でもある。冒険者に介入される事を快く思わない者も多いのだ」



 そう言ってエステルが深々と頭を下げてくるが、慌てて俺は「構わない」と返す。


 こういう所がエステルが早々に部下を持つ身になった所なのだろうか。


 まぁ、アプリの頃の性能から考えてもずば抜けて強くはあるのは知っているが。


 今回もメインタンクに来ないかなと切に願う。



「それで、教会の方は変わりないみたいだけど、どうするんだ?」


「そうだな……貴殿にもシスターの話を聞いてもらいたいと考えている


 私が聞いた話と相違点はないとは思うが、違った視点から気付くこともあるだろう」



 なるほどなと思いつつ教会の建物内に入ると、


 目深にローブを被り、祈りを捧げている人々の姿。


 そしてそれをまとめ導くように壇上に立つ、


 柔和な表情のシスターの姿があった。



「ようこそ、教会へ。エステル様……それに、冒険者様。


 あなた達に陽光神のご加護がありますように」



 そう、このシスターこそチュートリアルをスキップした時に手に入る、


 タンク、アタッカー、ヒーラー。俗称メルカトル三人集の一人。


 "シスター アンク"その人なのである。



 長い金髪に、如何にも僧侶してます的な聖職者の風貌で、純僧侶との別名もある。


 ただしあくまでヒールは一人のみにしかかけられず、詠唱時間も長い。


 その代わり、回復性能は高い。基本性能は悪くは無いが、上を目指すには辛い。



 対人戦で相手が"農民 ブリオ"の全体回復ごり押しラッシュを展開すると、


 こちらはその圧倒的な回復量に追いつかず押し負けてしまうのだ。


 だが、薄汚いおっさんをどうにも使う気にならず、


 全体としてはアンクを使う初心者~中級者も多かった。


 かく言う俺も、実はアンクをスタメン入りさせていたりする。



 契約石を使うガチャでは星三つのレアリティは最低保障されており、


 比較的にそのレベル帯のキャラクターは手に入りやすい。


 余談だが、ガチャでは武器・防具・アニマかそのキャラクター本人が排出される。


 アニマを複数揃えればそのキャラクターを解禁させることもできるというシステムだ。


 だから星五つのキャラクターも課金をし続けていればアニマ解禁という手段を取れる。


 いくら課金をしても絶対に手に入らないと言うことは起き難いシステムになっているのだ。


 かくいう俺もアニマを集めてアンクをガチャから引っ張って来た口だ。



 そんな目の前のシスターの姿を見て、俺はエステルを見た時と同じように感動していた。


 自分が今まで愛着を持ってスタメン入りさせていたキャラクターが、目の前にいるのだ。



「それで、ご用件は今朝方の件でよろしいでしょうか」



 にっこりと語りかけてくるシスターに、エステルは鼻息荒く答える。



「いや、それもあるのだが。こちらの冒険者"自由の旅人 ヴェリ殿"に陽光の洗礼を施して欲しいのだ」


「あら……それはまた驚きですね。こちらの方が自由の旅人というのにも驚きですが、まさか陽光の洗礼を施されるとは」



 なんだ、それはと驚く暇もなく、


 アンクは「では、こちらにいらっしゃってください」と、俺を教会内の扉に案内する。


 その時に、教会のどこかから「ようやく見つけた」と小さく聞こえたような気がした。


 祈りを捧げている人々が発したのかと思いそちらを見たが、特に誰も動きを見せていない。


 気のせいだと思い直し、導かれるまま、エステルと共にある個室にへと案内された。

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