第4話

……改めてなのだが主人公の、喋らないのに周囲を魅了するという特性の難しさに思いを馳せる。



 ―――そんなの、無理でしょ、うん。


 何だかじわりと胸に暖かいものが宿った。


 アプリの時はガチャ運が来なくて、戦力が揃わない八つ当たりをしてすまなかった。



 まぁ、代弁者が主人公あげをしないと凄さも分からないよな。


 つまり、ハンプという存在もそれこそゲームの都合という事なのだろう。


 ヴェリよ、本当にすまん、色々詰んでたんだなお前。


 どこか遠くからから「ええんやで」と聞こえてきた気がしたが、


 気にしないようにしよう。



「そう。自由とは縛られないこと。そんな世界を俺は今日も往く」



 気が動転しすぎて、あらすじで表示された文章をリズに喋ってしまった。


 何言ってんのこいつというような視線を彼女から向けられたが、気にしない。


 俺はヴェリをどうプロデュースしたいんだろう。



「ま、まぁ、兎にも角にも旦那様は素晴らしいお方なのです」



 ハンプも適当にフォローをしてくれているし、


 もうヴェリぼっち問題の言及はいい加減勘弁してくれ。何かこっちまで泣きそう。


 リズは「へーすごいね」と言った後に、こちらに興味をなくしたように無言で佇まいを戻した。


 そんなこんなで地獄のような時間を経てから、ようやく騎士の検問まで辿り着く。


 どうやらリズは問題なく通過できたようで、別れ際にじゃねーと手をひらひらさせて去っていった。



「おっほん、そこの馬車、止まれ。まずは何か証明になる物を見せてもらおうか」



 荘厳な装いを隠そうともせず、フルフェイスで顔まで隠した騎士が語りかけてくる。


 本来は守衛や、憲兵といった下っ端が行うような業務なのだろうが姫様の一件から出張っているのだ。


 それに下っ端では姫様の姿をはっきりと認識できない可能性があるとのこと。


 そんなことをハンプから事前に聞いていた俺は準備していた冒険者カードを差し出す。



「なになに、証明は冒険者カードと。内容は、クリューゲル発行の星……三つの冒険者だと」



 騎士団連中が少しざわつき、ハンプが誇らしそうな顔をしている。


 ……思ってた以上に星三つとは凄いことらしい。


 ヴェリよ、ぼっちとかコミュ障とか言ってごめん。



「……称号の"自由の旅人"と言えば、メルカトル在住の人には分かるかと」



 ハンプが駄目押しとして、俺が築き上げてきた称号名を言う。



「おぉ、自由の旅人とは貴殿の事か。この街にもその噂は入ってきているぞ」



 如何に俺自身の記憶にないからと言って、褒められて悪い気はしない。



「なるほど、"自由の旅人"の称号は聞こえど名前が不明瞭であったのは、


 その実、自身が卵型のモンスターであったからだということだな」



 騎士が訳知り顔でややニヒルな笑いを飛ばす。


 何か盛大な勘違いをしてる気がしてるその騎士に俺とハンプは苦笑いした。



「……って違いますぞ! わたくしではなく、横にいるお方の事ですぞ」


「なにっ、おお、すまんすまん。どうにも称号の名だけは聞こえてくるが、


 その実態が謎の部分が多かったために、実像が掴めておらんかったのだ」



 冷静なツッコミを受けるのが、何か恥ずかしいんですけど。


 まぁ、でも喋らなかったら人間像とか伝わりにくいよな。そこはヴェリが悪い。


 そんな事を考えているうちにゴホンと佇まいを直した騎士は改めて問いかけてくる。



「まぁ、証明として問題はない。


 卵形の魔物の方もきちんと冒険カードに登録済みと記入されていた。


 それでは……改めて陽光の騎士として問う。メルカトルには何をしに来たのだ? "自由の旅人"」



 その問いに俺の胸はどきりと跳ね上がる。


 陽光の騎士……?! まさか、対面してるこの人物って。



「もしかしてと思いますが、まさか、あなたの名前はエステルと言わないですか」



 興奮を抑えきれなくなって、つい口から言葉が勝手に発せられてしまう。



「ほう、ヴェロニカ姫様付きである私の名を貴殿が知っているとはな。


 冒険者内にもこの名前は多少は響いてきたということか」



 目の前の騎士は、軽やかにフルフェイスの兜を頭から脱いだ。


 しゃらんと綺麗な雫が額から伝う。



「如何にも、私の名前はエステル。


 ……おめおめと姫様に逃げられてしまった"陽光の騎士"だよ」



 そう言って、多少の悔しさを滲ませてくるエステルを見て、


 生エステル来たこれとか、メインタンクきたこれと思うと同時に、


 ―――うん、ハンプに"自由の旅人?!"とか言ってる時点でドジっ子だと思ってたよ。と、嘘偽りない感情を心の中で吐露する。



「それで、"自由の旅人"よ。如何にして、メルカトルへ?」



 質問を再度繰り返す彼女の表情、口の動き等を見て、


 そういや、アプリのチュートリアルに出てくるフルフェイスの騎士ってエステルだったのか。


 結構考えられてるんだなーこのゲームと、俺は感動を隠し切れないのであった。

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