第三章―8

 眠っているシンを見下ろす。安らかな寝顔。何も心配はない。後は回復するのを待てばいい。なのに赤い光が、シンに影を落とす。何一つ確かなものがないまま、翔は一人の時間を過ごした。


「あれ、僕寝ちゃいました?」


 シンが目覚め、再び眠りについてから数時間後、今度は俊太郎が目を覚ました。そのことに胸を撫で下ろす自分に翔は気づいた。自分で思っていた以上に、孤独を不安に感じていたらしかった。


「今はまた寝てるけど、さっきシンが目を覚ました。ありがとう。俊太郎が冷静でいてくれたから助けられた。俺一人じゃきっと無理だった」


「そんな、ただ止血しただけですよ。でも、無事でよかったです」


 俊太郎の無邪気な笑顔に、翔は救われる想いだった。


「あの、話は変わるんですけど」


「ん?」


「治療のこと、有難いんですけど、僕、お金持ってなくて。だからやっぱり辞退させてもらおうかなって。あ、怪我が治るまでここにいてもらっても大丈夫なんで、そこは気にしないでください」


「ちょっと待ってくれ、お金とか俺たちはとらねえから。ただ最後に、記憶をもらうだけだ。だから考え直してくれないか」


「記憶をもらう?どういうことですか?」


 翔は手で口を覆う。そんなことをしても、手遅れだった。治療の報酬として治療に関する全ての記憶を消すことはその寸前まで言ってはいけないと止められていた。自分の口の軽さに辟易する。


「カイ族のことはさ、誰にも知られちゃいけないんだ。なんとなく、わかるだろ?特別な力だ。悪用しようって奴も出てくるかもしれないからな」


 俊太郎は素直に頷く。


「悪い。今の話は忘れてくれねえか。本当は言っちゃだめだったんだ。言っちゃったけど」


 わかりましたと俊太郎が笑う。翔は頭を掻いた。シンの怒る顔が目に浮かぶ。

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