第三章―6
翔は諦め、家の中へ帰り、居間の床で眠っている二人の横に腰を下ろした。そこから視線を上げると、先に見えた棚に写真立てが飾ってあった。
立ち上がり、よく見ると、俊太郎と祖母のよし江だった。仲良さそうに二人で庭に立っている。勘だったが、俊太郎がソロンに支配された背景にはよし江がいるのだろうと思った。俊太郎が起きた時、よし江のことを聞いてみようと決める。
翔は大きく溜息をついた。俊太郎のことも心配だったが、シンの方が心配だった。心の中へ入って身体が裂けるなんてことは今まで一度だってなかった。そして赤い石と胸の傷跡。赤い石が光るたび、シンの身体の傷が癒えていくようだった。その不可思議な出来事が、翔には恐ろしかった。
「覚悟って何だよ」
赤い石のことを覚悟の石と呼んだシンの切迫した雰囲気に、翔は圧された。患者の心の中へ入るとき以外、寝ている時すら肌身離さず石を首からかけているのには、何か特別な理由があったのだと思えた。
「翔さん?」
翔は素早く振り返り、駆け寄る。シンが目覚めたのだ。喜びが溢れ、抱きしめたい衝動に駆られたが、やめた。傷が開くかもしれないし、気持ち悪いと言われることは目に見えている。
「僕は眠っていたんですか?どれくらい?」
まだ意識がはっきりしないらしく、混濁した目で翔を見つめてくる。
「丸二日だよ。ずっと寝てた。あの出血量で二日で目が覚めるなんて、奇跡だぞ」
「それは」
シンが覚悟の石に視線を遣る。その石は一体何なんだ。飛び出てきそうな疑問を、翔は押しとどめた。今はまだ聞かないでおこう。聞くのはシンの傷が完全に癒えてからだ。そう誓う。
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