第三章―4
シンの身体に、無数の亀裂が走っている。皮膚の裂ける耳触りな音が、翔の感覚をざわつかせる。翔の手の中でシンの身体が固くなり、そして目が開いた。心が戻ってきたのだ。
安堵したのも束の間、シンはかすれた笛の音のような呼吸をし出した。ひゅーひゅーとすきま風のような音を出して息を吸っている。口元を見ると動いている。何か言おうとしているのだと気付き、口元に耳を近付ける。
「覚悟の石、を」
それが赤い石の首飾りを指しているのだと遅れて気付き、慌ててシンに首飾りを手渡した。シンがそれを首にかけようとするので、手伝ってやる。
首にかけると、赤い石が鈍く光った。すると段々呼吸が落ち着いていき、シンは目を瞑り、倒れ込んだ。
「これを」
翔と一緒に怯えていたはずの俊太郎が包帯を持ってきてくれた。それで止血しようと彼は言う。頷き、包帯を巻くために、翔はシンの服を脱がせた。なんとなく首飾りはかけたままにして上着を脱がせ、息を呑む。
シンの胸に、大きな五角の星が彫られていた。彫っている部分の皮膚が赤く盛り上がっている。生き物のように、その傷跡は脈打っていた。それは、あの首飾りと同じ模様だった。ただの星の模様だ。翔はそう自分に言い聞かせた。だが、寒気が消えない。赤く光る石が、翔を嘲笑っているかのように感じた。
「よし、医者に行こう」
シンを抱え上げ、翔は玄関の方を向いた。一刻も早くきちんとした治療を受けさせてやりたかった。だが、気を失っていたはずのシンの目が開き、翔の腕を掴んだ。
「下ろしてください」
死にかけている人間のどこからそんな力がと思うほど、強い力が腕に伝わる。言葉ははっきりとし、瞳の光は鋭かった。
「医者は、いりません。すぐ、治りますから」
そう言って、シンは完全に気を失った。ただでさえ不測の事態であるのに、翔はさらに困惑した。
赤い石がまた、光る。
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