第三章―2

「どうぞ」


 奥の部屋にある仏壇の前に通され、二人は正座した。飾ってある写真には、可愛らしい笑顔を浮かべる老婆が映っていた。人柄の良さが見てわかる。


 二人は線香を上げ、名も知らぬ女性に、祈りを捧げた。俊太郎は眩しそうに、その様子を眺めている。


 祈りに反響するように、庭の植物達がざわめき始めた。よし江、よし江と口ぐちに囁いている。どうやら写真の彼女を想い、泣いているようだった。来た時感じた悲しみはこれだったのだと翔は納得する。


 焼香を終え、シンは俊太郎の方へ向き直った。


「実は、僕たちはよし江さんの知り合いではありません。あなたに会いに来たのです」


 俊太郎は訝しがる。


「でも、線香を上げたじゃないですか」


「まあそれは、ノリというか」


 黙ってろと、視線でシンに射殺される。翔は肩をすぼめた。


「僕たちは、あなたの心の声を聞いてここまでやってきました。あなたの心は今、病んでいます。心当たりがあるのではありませんか?」


 俊太郎は考え込む。そのまま、虚ろな表情になった。今まで出会った、病んだ心の持ち主がする、独特の表情だ。彼もまた、ソロンに支配されている。翔は確信した。


「もしよろしければ、あなたの病の治療を僕達に任せていただけませんか?」


 俊太郎は虚ろなまま、二人を見た。元々警戒心の少ない素直な人間なのだろう。だがソロンのせいで、物事を深く考えることができなくなっているようにも見えた。


 特に抵抗もないまま、俊太郎は治療を受けることを承諾した。シンや翔について、深く詮索してこない。良く言えば流れに身を委ねている。悪く言えば、無気力だ。どうでもいい。そう感じているようだった。

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