第二章―9

「あなたは弱いです。それ以上に、優しいんですよ」


「違う、俺は俺のことしか考えていない」


「そうでしょうか。失う辛さを、感じてほしくなかったんではないですか」


 涙が、頬を伝う。


 佐々木。浩子。ごめんな。俺はお前達二人の幸せな姿を永遠に見ていたかった。それだけで良かった。浩子、お前を救いたかった。でも、ごめん、それ以上に、俺は佐々木を一人にしたくなかった。だから、お前を救おうとした。佐々木を失いたくなかったから。


 一人は、寂しいから。


「浩子には申し訳ないと思っている。でもそれ以上に、俺は佐々木への罪悪感を消すことができない。あいつの苦しみを、俺では消せないから」


「馬鹿言うな」


 声がして、扉が開く。秋山は目を見開いた。佐々木が中へと入ってくる。


「お前が、全力で浩子を助けるために頑張ってくれたことを俺は知ってる。浩子も、わかってた。なのに、そんなこと言うな」


 佐々木の両目から涙が零れた。


「親友のお前まで俺の前から消えたら、俺は一人だ」


 秋山は、ただただ唖然とした。佐々木の言葉を理解するのに、笑えるぐらいの時間を要した。そしてようやく理解できた時、二人は手を取り合い、泣き続けた。



「祈っとけよ」


 手術室へ向かう前、秋山はシンにそう言った。シンが頷き、微笑む。


 一つ、深呼吸をする。手の震えはもう、ない。手術室に入り、全てを研ぎ澄ませる。


「メス」


 必ず助ける。その誓いを覚悟に変える。


 怯えは消えない。だが、秋山の孤独は、包まれたように、温かく、和らいでいた。

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