第二章―7
「神出鬼没な奴だ」
どこにいても、夢の中にも、現れる。だが最初とは違い、それが不快ではなくなっていた。振り返るとシンが笑っている。青年もいた。
「お前なら、この震えを止めることができるのか」
「一時的なら」
「それでいい。やってくれ」
シンは首を横に振る。
「なんだ。虫が良すぎるか?頭を下げれば、やってくれるのか。土下座でもしようか」
「今までになく必死ですね」
「守りたいものがある。当然だろう」
由美の笑顔を、彼女の周りにいる人間の笑顔を、秋山は守りたかった。誰の悲しむ顔も見たくない。
先生だったら、大丈夫だって信じてる。由美の言葉が胸の中を支配する。そして浩子を思い出す。秋山くんなら、安心だね。そう言って、彼女は死んでいった。信頼したまま、死んでいった。大事な人を残して。自分のせいで。
「僕が何をしなくとも、あなたが自分の心と向き合えば震えは止まります」
「俺は、俺の弱さを知ってる。十分すぎるほどな。これ以上どう向き合えって言うんだ」
「心と言葉は違います。あなたはただ、言葉で自分の心の中の現象を捉えているだけです。それでは、何も変わらない。あなたは自分の心の声を無視していて、その結果が、その震えです」
右手が震える。だんだんと、激しく、強く。
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