第一章

 その子供たちは、翔と夕貴だった。幼い日々を思い出す。二人でこの公園に来ては、駆け回り、ブランコに二人で乗り、滑り台を逆から駆け上がり、砂場で泥だんごを作っていた。懐かしい思い出。


「過去の幸せな記憶を選び、巻き戻し見ているのでしょう」


 瞬きをすると、今度は夕貴の部屋にいた。小林と二人、楽しそうに会話をしている。現実では同じ場所で夕貴は眠り続け、小林はもういない。


 断片を繋ぎ合せただけの、素人が作った粗末な映画のように、幸せな記憶が流れていく。平凡な日常だった。だがその平凡さこそ、夕貴が一番望んでいるものなのだ。小林さえ生きていれば、夕貴は幸せでいれたのだ。


「俺が代わりに死ねばよかったのに」


 思わず呟いていた。直後にシンの平手が飛ぶ。痛みはなかったが驚き、翔は目を丸くした。


「負のソロンの中にいるので、負の感情に流されやすくなっています。苛々している人の近くにいると、自分まで苛々してくるといった経験はありますよね?それと同じです。気をしっかり持って」


 シンの強い口調にも驚き呆けていると、シンがまた手を振りかざしたので、翔は慌ててそれを押し止めた。


「負の感情に押し勝つ方法は一つです。それ以上の正の感情を持ってくるしかない。

翔さんの、今一番強い正の気持ちはなんですか?」


「俺の、正の気持ち」


 翔は考え込んだ。だが考えれば考えるほど、自分を責めたり、悔やんだりしてしまう。それに気付き、流されるなと、叱咤する。


「俺は、夕貴を救いたい」


 負の感情を振り払うように翔は叫んだ。叫ぶと、少しだけ、気が楽になったような気がした。


「その気持ちを、忘れないで」


「ソロンって怖いな」

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