第一章
「仕方ないですね。三つ、約束できるのであれば、夕貴さんの心の中まで連れて行ってもいいです」
「約束する」
「最後まで聞いてください。行ったところで、翔さんにできることはないですよ。いいんですね?」
「いい、それでも」
また、ため息。この少年に、翔は呆れられているのを感じた。それでも、構わない。
「大人しくしていること。僕の指示に従うこと。夕貴さんの前で決して声を出さないこと。この三つを、必ず守ってくださいね」
念を押すシンに、翔は親指を立てて答える。不安そうなシンの表情は、暗闇に紛れて伝わらなかった。
翌日、夕貴の横に翔とシンは腰を下ろした。鼓動が早まる。今から彼女の心の中に入り込もうというのだ。できるのかという不安と、助けるのだという興奮が翔の中で同時に押し寄せてくる。
シンは大きな首飾りを外し、それをそっと夕貴の胸元に置いた。改めてみると、石の赤味が昨日より増しているように見える。禍々しいほど、その赤は濃く、深い。
「目を瞑ってください。ゆっくり、深呼吸を」
言われた通りにする。息を深く吸い込むほど、頭の中に靄がかかる気がした。
「約束を忘れないで」
シンの言葉と共に、翔は地の底に、深く深く落ちていく。捩じれ、渦巻き、分散して、また一つになる。暗闇と、無数の光。宇宙の中に漂い、海の中で浮かんでいるような感覚。
目を開けると、翔は近所にある小さな公園にいた。
「夕貴さんの記憶の中です」
現実なのか心の中にいるのか悩んでいると、シンが見透かしてかそう言った。辺りを見回す。ブランコに、背の低い滑り台。木でできたベンチ。懐かしさが込み上げる。
丸い小さな砂場では、二人の子供が砂山を作って遊んでいる。
「あ」
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