第一章
夜、翔は自分のベッドの横に布団を敷いた。夕貴の治療は明日行うことになった。それでは今晩の宿はどうするのかとシンに聞くと今日は野宿するというので、強引に部屋に連れ込んだのだ。
夕食も一緒に食べようと誘ったが、どうやら両親に会いたくない、というより、自分の存在をこれ以上広めたくないらしく、丁重に断られた。カイ族やソロンといった言葉を聞かないのも、こうして存在を秘密にしているからなのだろうと翔は納得した。
全国を治療の旅で飛び回っている日常の中、布団で寝るのは久しぶりらしく、シンは干したての敷布団の上で、嬉しそうな、少し緊張したような面持ちだった。そのような姿は年齢相応に幼く見え、微笑ましい。
「布団で寝るのが久しぶりって、お前どういう生活してんだよ」
翔はベッドに、シンは布団の中に、それぞれ横になり、電気を消す。
「普段は野宿です。森の中の落ち葉とか、柔らかい土が、ベッドの代わりです」
「まじかよ。飯は?」
「治療している時はたまに患者の方から食事をいただくことがあります。それ以外は木の実や魚などを採って食べます」
「原始人かよ。肉食え、肉。育ち盛りだろ」
シンは何も答えず、ふふっと笑った。
同じではなかったな。翔は思う。出会った瞬間は仲間かと思ったが、どうやら翔とシンの間にも隔たりはあるようだ。そしてその隔たりは、翔以上にシンの方が強く感じているだろう。こんなガキに一人で全国を旅させるって、どんなスパルタ一族だよ、と翔は憤る。
「俺は自然と会話することしかできないけど、お前は自然の力を借りて、色々できるんだろ。何かやってくれよ」
そう言うと、シンは微笑み、窓に向かって手を伸ばし小さく何か呟いた。すると、夜空に瞬く星の光が窓を通り抜け、部屋の中へと飛び込んできた。小さな部屋の天井が、本物の夜空へと変わる。
「すげえ」
ただ素直に、翔は感動した。カイ族は特別な力を持っている。夕貴の目覚めを、翔は確信し、安堵した。
「カイの村では、こうして光を集めていたんですよ。火は調理と暖をとる以外では使わず、電気もないため、星の光を分けてもらっていました。カイは風、水、火、木、土、いわゆる五行の力をこの世界の大自然から借り、生きてきたんです」
「いいな、それ」
しばらく星に魅入る。銀色の輝きは、やがて消えていった。
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