本格バトル6  歴史②


前回のあらすじ:歴史の授業中に気分が悪くなった俺だが、口から出たその言葉は『ブラットエンド』という言葉だった。そして、ブラットエンドという出来事を境に二つのサバイバル概念を目の当たりにするのだった。




「一万人のシャトル打ち上げ終了後、暫くして地球は完全な荒ぶる惑星となりました。有毒ガスは全陸地へと蔓延し、超大型の嵐は月から肉眼でも見える程でした」

別れの言葉もかけず黙って地球に置いてきた人類への罪悪感からか、それとも地球が変貌し、もう戻ることのできない祖国を嘆いてか、宇宙での生活に心を病む家族もいたと、立体映像で映し出される教科書には記されていた。

「ですが、嘆き悲しむ暇もなく、人類は自分たちの問題に着手するしか他はありませんでした。元から月基地にあった設備、一万人もの人類をカバーするのはギリギリであったためです。この問題をすこしでも解決へと進めなければ、決して仲が良いとは言えない国家同士の言い争い事が起こるのは必至。その背景もあり居住区の拡大と食料、そして生活水準を確保することが最優先でした」

渡辺先生は電子黒板で図式を書きながら説明を行い、人類が宇宙で暮らすためのサバイバルが始まったと、渡辺先生は語った。



教科書にはこう書かれていた。

『――まず問題なのは水と食料だった。最初は宇宙ステーションとして基地に備蓄されていた食料を、ブラットエンドによって移住した人々へ少しずつ配布されたが、最初はカバーできていても、底をついてしまう前に何としてでも既存してあった月での農業拡大と世界各国の食料の栽培方法を確立する必要があった。そのために、まず月の改良した土を多く造り、居住区の半分以上占める畑を作りあげた。そこに、食物、そして果物なども作ることで同時に水の確保も行った。

そして次の問題は居住区だった。

最初の月基地は宇宙でいたころの様に長方形が何個も連なったような建物だったが、これから増えるであろう人口増加のために月の隕石衝突によってできたクレーター、つまりは穴のようなくぼみを利用して、ドーム型の居住区も同時に計画された。

月で建物を建設するのに、最初の月基地を建設する際に使用された地球産の重機や機材は大いに役立った。豊富な資源があった地球と比べ、月は砂と岩だらけの惑星であり、とても人力では出来なかったことが、重機によって月への移住拡大を大きく進めたのだった。そして、何よりも不幸中の幸いだったのが、地球でも天才と呼ばれる多くの科学者、天文学者が一堂に一か所に揃っている事だった。議論は連日行われ科学と天文学の研究が大きく進展、更には人類の暮らしを豊かにする発明品もこの時代に多く生み出されたという。

だが、それでも今まではビル一つ建てるのに地球上で半年程度のところをその倍以上の年月を要した。

それほど重力が地球と比べて六分の一しかない場所と重機備え付けのライトを照らさなければ漆黒の闇である月面での建設作業は困難を極めた。

その後、ようやく移住者1万人をカバーできる居住区と生活基準を整えた環境を作り上げたときには、宇宙間での建設技術は飛躍的に伸び、惑星の疑似モデルを作ることに成功。これが、人口衛星や宇宙戦艦の始まりの一歩となるのだった』っと、教科書にそう書かれているのだった。

――そして少し前からLOPSも発明されていたのだが、この時代から多くのコミュニケーションツールとして、または宇宙戦艦などのあらゆる物にも電子機械の一部として組み込まれるのだった。


「以前から月へのテラフォーミング(惑星の環境を変化させ、人類が住める星に改造すること)は月基地を作ることで成功していましたが、この人類全員をカバーするまで環境を整えたことは、我々祖先が努力した結果でしょう。

そもそも人類は、地球歴1961年にソ連のカガーリン宇宙飛行士が初めて宇宙から地球を見た年と、1969年アメリカ合衆国の世界初となる月面着陸の船長アームストロングと着陸船操縦士オルドリンによる月面着陸から、実に1000年の月日を経て我々の祖先は完全に月への移住を移行することとなったのです。人から人へと国境を越えての、宇宙への飽くなき探求と挑戦、実験によって、私達の月での生活が成り立っていることを覚えておかなくてはなりません」

渡辺先生が言っていることはごもっともなんだが、俺はというと、気分が一瞬良くなったかに思えた気分不良だったが、気のせいじゃなかったのか、やはり頭痛とめまいが治まっていなかった。

俺にしてみたら健康な体で生活成り立ってるわなーと、思うのだった。

(授業終わったらソッコーでトイレか保健室行こう・・・・)

そして授業は進んでいった。

徐々にではあるが、月での人口増加に伴い、太陽の光が当らない月の裏側にまで、居住区を拡大し続けた人類は、クレーター奥深くの地下に巨大都市を建設、都市を覆うドーム型の屋根の上に、被曝防止剤などを混ぜた土を被せることで、月による軽すぎる重力の問題と宇宙を飛び交う放射線(宇宙線)、強すぎる太陽光(太陽風)などから人類を守る役目を果たすのだった。

そこからの人類は病院、競技場、学校等、いろんな種類の建造物を建て、いつしか国別の都を形成したという。


この時、藤原が質問なんですけどと言って手を挙げた。

「先生、今朝のニュースで宇宙戦艦にも核爆発ができるように、移動スピードを上げようとする計画があがっていると報道されてましたけど、科学者の人って、なんで核を使ってなんでも使おうとするんですか?ブラットエンドのときに原子炉で散々地球を滅茶苦茶にしておいて」と、言った。

絶賛体調不良の俺は、何でだろうな~と思いながらチンプンカンプンだった。

(休憩時間まで我慢したかったけど、無理そう・・・・)

真面目な生徒からの質問に、渡辺先生も真摯に答えた。

「科学者ではないので、詳しくは分かりませんが、核実験はビックバン(宇宙の始まりは高温、高密度な物の爆発から生れたという概念)のモデルにもなっているので、それほど大きいエネルギーです。広大な宇宙を調査することやその宇宙での生活を支えるのはやはりそれに対抗できるパワーと知能しか私達人類には生き残る手段として残されていないようなのです。火星に核爆発させ、人口の大気を作ろうという計画もありましたが、今住んでいる月面以外で生きられる惑星はまだ見つかっていないので、人類は核による悲劇があっても、原子炉や核爆発を手放すことはできないのだと思います」

渡辺先生が何か説明していたが、俺の目下の悩みは体調不良だった。

なぜだか、歴史の授業開始から具合の悪さは治まらないので、言い終わったのを見計らって、授業退出の手を挙げようとした、その時だった―――――。

急に横から物凄い風がおこった。

うわ、なんだこれ!と、思いながら風が吹いた方へとみると、教室の窓には一羽のわしがいた。

しかもデカい奴。

俺が目ん玉ひんむいて凝視していると、

「あ、太郎じゃない!」

「太郎、おいで、おいでー♡」

あっという間に鷲の周りを生徒達が囲んでいた。

(え、なに?みんな知ってる鳥?)

俺が茫然としていると、横から説明の言葉が降り注いできた。

「あの鷲は、学園の敷地上空を飛んでいる太郎っていう鳥なんです」

声の主は渡辺先生だった。

「へ――、太郎・・・・・」

(カッコいい鷲なのに、なんで古風な名前・・・・・)

俺はすっかり体調不良も忘れてその鷲を見入っていた。

「あ、伊集院先生も撫でたら?太郎、男の人でも喜ぶから!」

振り返った生徒、藤原麗奈に、そう言われちゃ、誰でも触ってみたくなるもの。

「男だからって、噛みつかない・・?本当に大丈夫?」

触ってみたいのは本音だが、いざ鷲が目の前にいると俺はその鳥の大きさに息を呑んだ。

見れば見る程デカいんだ、これが。大きさなんてインコとか雀の比じゃないぐらい。俺の方が大きいはずなのにそれを圧巻するほどの気品のオーラ。心の内まで見透かれそうなほど綺麗で鋭い眼、大きい肉塊を今まで裂けてきたであろう力強いくちばし。目の前の近くで見ると、さすが鳥の王者って感じ。

「大丈夫、大丈夫。太郎って、人懐っこいんだよ。絶対大丈夫だから」

そう言われて、俺はその言葉を信じてみることにした。

恐る恐る鷲の太郎の頭にそっと手を出すと、嬉しそうに俺の手をスリスリと逆に頭をくっつけてきた。

(うっっわ!可愛いい!!)

太郎は眼を瞬きしながら手にスリスリしたんだけど、これが本当に喜んでいるように見えて、気づけば両手で撫でてた。

「可愛いな、太郎!!ヤバイ、超かわいいんだけど、コイツ!」

俺はさっきの恐怖は吹き飛んで、すっかりこの太郎のことが大好きになっていた。

そもそも、鷲の大きな羽といい、カッコいい外見から男として俺のテンションは上がっていた。

「お前、なんで太郎なんだ?こんなカッコいい鷲なら、もっと良い名前あっただろうにな―」

と口が滑ってしまった。

「伊集院先生、飼い主は花鳥先生です」

「—―さっきのウソ、太郎って古風で素晴らしい名前だよな!!」

「先生、誤魔化すの下手過ぎ・・・・・」

「めちゃ焦ってるね、先生」

「・・・・みんな、こういうときこそ空気読んでくれ・・・」

「それにしても、太郎、お腹減ってる?」

「今日は調理実習もないし、美味しい物ないよー」

ミーシャがそう言うと、太郎は言葉の意味がわかったのか、大きな羽を広げ風を巻き上げながら上空へあっという間に飛んでいった。

急に風が教室におこったのは、あんな感じだったんだな・・・・・

俺が茫然と太郎が飛んでいった上空をみていると、

「伊集院先生はこの学園にきたばかっりだから教えてあげるけど、太郎は調理実習のときよく来るから、たぶん明日また会えるよ」

「え、明日って調理実習あんの?」

「女子校に来た人によく驚かれるんですが、わが校は調理実習が週に一回はあるほどなんですよ」

後で教えてもらったのだが、なんでも女子高は一応良妻賢母を目指して家庭科関係が多いらしい。

俺、実習前にこの学校のことを調べたつもりだったが、不十分だっだみたいだ。



                 ♢


この物語はフィクションです。


テラフォーミング、ガガーリン宇宙飛行士、月面着陸の船長アームストロングと着陸船操縦士オルドリン、太陽風、宇宙線、ビックバン・・・・・Wikipedia様より引用

太陽風・・・・・太陽から放出される電気を帯びた粒子(プラズマ)





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