本格バトル⑧実習二日目:夜明け


誰かの声が聞こえてくる・・・・。



「先生、あの子は?」


「あの子は・・・、遠いところにいっちゃってね」



「ほら、薫。別れの挨拶」

母さんが花束を持っている自分に声をかける。




「もう、嫌だよ!病院から僕だけ外に出れない人生の楽しみって、何なのさ!」


「薫、ごめんね・・。ごめんね・・・・」


「なんで謝るの!?困らせたいんじゃないんだ、身体が苦しくてもいいから、外に出たい!皆と一緒に外で遊びたいんだ!」



「—―かおる、お前は夢を叶えろよ」



そして最後に、しゃがれた声が聞こえた。

「薫、いつまでも・・・お前を応援してるからな―――」




声がどんどん遠くにきこえていた。

そして、その瞬間、脳にまで響くようなけたたましい音と共に、俺は目覚めたのだった。

見渡す景色は自分の家の風景で、いつの間にか朝日が昇っていて、カーテンをかけている窓からは暖かい光がこもれ出ている。その光が照らすテーブルには俺が書いている実習記録が広がったままで、ベットがある部屋からは、置いてある目覚まし時計が部屋の主人に向けて大きな音を鳴らしている。

(夢・・・?)

リアルに頭で見ていたものが、急に自分の部屋にいることに寝ぼけ顔で気づいた。

「なんか母さん兄さんだけでなく、爺ちゃんまで夢に出てたなあ。朝七時か・・・・・・。ん・・・?」

寝起きの頭から現実をまだ把握できていなかった。

寝起きの眼でテーブルの書類を見て、ようやく俺はとんでもないことに気がついた。

「あ―――!!実習の提出物―――!!」

悲壮な声が部屋にこだました。




――なんとか提出物を書き終えた俺は、ヘロヘロとなりながら、再びローズ学園の職員室の前に来ていた。

職員の朝礼に間に合ったことに安堵しながら職員室へ入ると、既に小塚が職員室の壁側に立っている。

「よ、おはよう」

「あ、小塚。おはよう」

「提出物書けたか?」

小塚が笑顔でさっそく訊いてきた。

「え、ああ、帰ってから速攻で書いてたから。けど、途中寝落ちしてたから、結局ギリギリになったんだけどな」

既に到着していた小塚は担当教師に実習の提出物を提出済みで、俺もカバンから提出物を暮らす担当の渡辺先生に出すのだった。




そして、また二日目の教育実習が始まり、俺は渡辺先生と一緒に特別学級に行き、教室へと足を踏み入れた次の瞬間、  

「先生、お覚悟!」

生徒たちが手に持っていたのは弓で、俺に向けて矢を放ってきた。

勢いよく放たれた矢はドスドスと、俺の頭や顔に矢が当たり、俺の身体は矢でいっぱい刺さってる。だが、結局は矢が玩具おもちゃなので、矢じりの部分は壁に引っ付くようなシリコンだ。

「キャーやった!命中した♡」

「・・・・・君たち、・・・・今日はなにこれ」

「先生へのラブレターです」

「・・・もっと普通に渡せないの??」

当たり前のように回答する生徒に負けず、こっちも当然のように言い返した。

「こっちの方が、ドキドキでしょ?」

「いや、そうだけど、じゃなくて、普通下駄箱とかに入れたり、放課後に渡しに来るものでしょ?!」

「先生、いつの時代の話をしてるの?今の時代、気になる人がいれば、道端で歩いてる他人でも、連絡先交換は当たり前なのに」

「恋愛戦国時代ね♡」

そうニッコリしながら言葉を要約するミーシャの言葉に違和感を覚えつつ、俺は尚も言い返した。

「先生は大人なんで、ラブレターは受け付けておりません」

(というより、俺が教育委員会に殺されるわ)

ここローズ学園では、教育委員会のことを地獄の審議会と陰で呼ばれていた。

そう思いながら、頭やスーツにくっついている矢をポンポンと取って、ラブレターをみんなの机に丁寧に返却した。

ラブレター返却に抗議する生徒の声を無視して、俺は昨日と同じ席に座った。両隣の机に座っていたのは、涼とミーシャ。

「先生、今日はよろしくね!」と、ミーシャ。

「よろしくお願いします」と、涼。

その後ろ左は綾、後ろ右は美咲、そして俺の真後ろ。

俺の肩にトントンと小さな振動が伝わる。顔だけ振り返ってみると、そこには、

「先生、今日もよろしく」

そう言って俺の頬を小さい指で触れてくる藤原麗奈だった。

おれもよろしく、と言ってHRを受けながら二日目の実習がスタートするのだった。




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