本格バトル④

教員要綱:いかなる時もその時代の歴史背景、環境で生きた人達について学び続け、未来の主役である生徒達に教え、伝えること。





体育の授業の後は歴史だった。

俺は体育後に男性ロッカー室で着替えた後、次の授業に向かうべく、自分の教室へと向かった。

その途中で小塚と別れたのだが、自分のクラスに入るなり目をみはった。

教室にはセリーヌと木暮美咲、先ほどの体育の授業で大活躍だったという門脇涼が既に着席していたのだが、そのセリーヌと美咲が頭をお互いくっつけながら前と後ろの窓側の席、同じ机でスヤスヤと寝息を立てていたのだ。

彼女達が寝るすぐ近くの窓は開いており、その窓からは五月という昼から夕暮れのひんやり涼しい風が教室へと舞い踊っていた。

(あ~、たぶん体育の授業で疲れて寝ちゃったんだろうな)

俺が自分の指定された机に近ずくと、それに気づいた涼が唇をキュッとすぼめ、指を立てながら、

「しー―」と、言葉には出さず、静かにするよう俺に伝えてきた。

俺も声には出さずに「わかった、わかった」と頷いての相槌あいづちを送る。

そっと席に着くと、俺はLOPSで歴史の教科書を開き、授業の準備をするのだが、やはり横の席で寝ている二人が気になって横を見てしまった。

そこには、体育の授業でいたいけな実習生をボールで追いかけまわしてたとは思えない、なんとも可愛らしい二人の寝顔があった。

二人とも淡く白い肌色のせいか際立つ紅い唇は、ぷっくりとしていて触れればマシュマロのような甘味さを醸し出している。

セリーヌは外国の血があるからか、太陽の日差しを受けて一層黄金の輝きを魅せる髪の間から垣間見える透き通った鼻に、綺麗な碧い瞳が長い睫毛と瞼で閉じられているのが何とも惜しい。

木暮は日本人だが、流れるような綺麗な黒髪が更に肌の白さを際立たせていることと、まだ十六歳とい若さからか、小さい顔にそれぞれ整った眼や鼻で、清楚さが際立つ。そして特に、机に上にチョコンと両手を添えて丸くなって寝ている姿がなんとも愛らしかった。

(くぅぅぅぅ、やっぱ可愛ぇぇぇぇぇなぁぁぁぁ!!!)

俺は拳を握りしめて感涙していたが、ふと、もう一人の後ろにいる生徒に羞恥を晒していることに気がついた。

斜め後ろにいる涼を振りかえってみると、門脇は窓側の席ではなく、ただ廊下側をジーと見つめているようだった。

ガッツポーズしていたところを見られてないことに安堵したのだが、俺はふと、こっちの生徒も気になって聞いてみた。

「なあ、門脇さん。じっと廊下見てるけど、どうかしたの?」

門脇は俺が声をかけてきたことに、一瞬の驚きの表情をみせたのだが、

「渡辺先生(歴史の教科担当)が教室に来たら、授業始まる前に起こそうと思って」

と、答えてくれた。

(お前、男前かよ!)

ショート髪といい、スラリと細い手足は、別な意味で美しさを織りなしていたが、姫を守るような騎士ナイトな発言に俺は感心しっぱなしだった。

それを、いつの間にか更衣室から戻ってきて遠くで見ていた藤原麗奈が、

「あの子達、やるわね」と、呟いたことは気づかなかった。

「いや、あれは素ですって」と、葛原綾がツッコミしたことも。

「え、天然ってこと?」

「そうですよー。そんな天然に対抗する術はただ一つ~」と言いながら綾は教室の中へと入っていき、セリーヌたちが眠る席に近づくと、セリーヌの上に乗っかり、

「私も混ぜて♡」と言ってお昼寝に参加するのだった。

藤原麗奈が‘『マネしろってこと!?』と驚愕している中、この物語の主人公は三人の生徒が丸まっているのを見て、

(三色団子になったな)

と、ボケたことを考えているのだった。



              ♢








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