本格バトル②

前回のあらすじ:昼食後の授業で体育だった俺たちは、何故か教育実習生同士でクラス対抗戦バレーを行っていた。特別学級の生徒や他の生徒からも応援を受けた俺は、ものの見事に花鳥先生の渾身のアタックを顔面に受けたのだった。



混沌とした闇の中、何かの音が聞こえてくる。

ゆったりとした一定の音。

音の高さは低く、誰かに話しかけているようだった。

「ああ、そうだ。帰りに一旦召集をかけてくれ。ああ、それと、器具もありったけの物で準備しててくれ」

単調な音に聞こえたのは、口調が事務的なものだったからだろうか。

何か連絡の電話だということは、話の内容がわからなくても感じ取れた。

LOPSを使って電話をしていたのは小塚だった。

俺はいつの間にか眼を開けていて、目の前に立っている小塚を見上げていた。

「お、伊集院、気がついたか!」

電話を終え、俺の視線に気がついた小塚は、驚いた表情で訊いてきた。

「ああ、大丈夫だ。それより、ここは・・・?」

俺は周囲を見渡しながら起きると、俺は小さいベットの上に寝ていたことがわかった。

だが、ベットの横に着いたと思った手は空ぶっていて、手を支えるのがなかった。

「あ、まだ、起きるな!」

小塚の先制も虚しく、俺の頭はベットから転がり落ちていた。

俺の頭は見事に固い床に当り、脚などはベットの上に横たわったままの変な姿勢になっていた。

「いててて」

「女子高だから、ベットも成人男性より小さいベットなんだよ。大丈夫か、伊集院?勢いよく頭から落っこちたが」

俺は小塚の介助を受けながらなんとか元のベットに座る形で落ち着いた。

「俺、なんでここにいるんだっけ?記憶がないんだけど」

「お前、花鳥先生のレシーブ顔面に受けたの憶えてねーのかよ?」

(花鳥先生・・・・・、レシーブ・・・・)

「体育の合同授業で、バレーの対抗戦してたんだよ」

(体育・・・・・、バレー・・・・・)

ここにきて、ようやく小塚の説明に頭のピントが合わさった気がした。

「ああああ!!思い出した!!俺、運動できないのに試合に出てて・・・・」

「やっと思い出したか。特別学級のわけわからんクラスの担任で、花鳥先生の強烈なサーブを顔面に受けて、更にベットから落ちるなんて、お前今日、とことんツイてないなー」

「・・・・そんなこと言うなよ。午前の授業で薄々感じてんだから」

――小塚の話によると、その後倒れた俺を他の体育教師と一緒に担いで、ここまで運ばれたらしい。その間、俺の受け持ちの特別学級の生徒が押し寄せたのを制するのに、一苦労したと言う。

(嘘だろ、あの後、俺気絶してたんか)

しかも体育の授業中で、周囲には大勢の生徒達がいたはずだ。

(そんな皆が大勢見ているコートで倒れたなんて・・・あああ、男として恥ずかしい!!!)

俺が恥ずかしさで悶絶していると、小塚が、

「お前、マジで怪我してねーよな?視界ぼやけとかないな?耳鳴りがするとかない?」

幼子の健康状態を確認するかの様に、小塚は顔以外に俺のボディーチェックを始めやがった。

「え、別に何ともねーよ」

(だから、俺の身体に手を廻すのやめろ)

「性格や頭は既におかしくても、身体は貰った物なんだから大事にしろよ」

「余計なお世話だ!」

「おい、そんなことより、口元、切れてんじゃねーのか?汚れてんぞ」

小塚の手が、俺の口元に触れようとしていた。

「別にいいって。」

「よくねーだろ、ばい菌でも入ったらどーすんだよ」

「んなの、自然に治るだろうが!!おめーこそ、口に手を入れようとすんなよ、逆に汚ねーだろうが」

そんなとき、個室のドアが大きく開かれ、生徒二人が勢いよく入ってきて、こう言った。

「小塚先生!大変です、特別学級の人が!!」

そんな中で、俺達が手を押し合い、言い合いながら小さいベットの上で攻防をしていた。つまりは、ベット上でいかがわしい雰囲気に見えたのかもしれない。

「きゃあ、す、すみません、失礼しました!」

「ち、違う、誤解、誤解だよ!男同士だから何もないって!!」

部屋の外へと出ていこうとする生徒を必死に呼び止めようとする俺。

「心外だな、お前は俺の看病のおかげで目覚めたようなもんなんだぞ?いわば、俺王子、お前眠り姫な」

小塚は見ているこっちがイラつくほど、平然とした顔で言った。

「お・ま・え・は、ちょっと黙ってろ!!!」

「・・・・入っても大丈夫ですか?」

さっき部屋の外に行った女子生徒達二人が俺の声を聞いたのかドアの裏側まで戻って来ていた。

「ああ、大丈夫、それより、特別学級の生徒が何だって?聞き取れなかったから、もう一度言ってくれないかな」

俺と小塚はベットから立ち上がっていた。俺はさっきまで横になっていたから、グシャグシャになったジャージの服を慌てて直しながら聞いた。

「あ、そうなんです。特別学級の先輩方が大変なんです!」

――――俺達がすぐさま部屋から飛び出したのは言うまでもなかった。



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