本格バトル
教育実習課題2:学年別の生徒の運動能力、把握に努めること
昼食が終わった後の授業は体育だった。
「キャー!!伊集院先生頑張って――!」
「花鳥先生、負けないで――!!特別学級に負けないで――!!」
体育館には女子学生たちの熱い声援が響き渡っている。
だが、その体育館でバレーの対戦を行っているのが、本来主役であるはずの学生ではなく、女性実習生達VS男性実習生という風変わりな光景が広がっていた。
(・・・おかしい。どーして実習一日目からなんで実習生同士でバレー対抗戦!?)
そんな伊集院が頭の整理に励んでいると、人数が足りないということで急遽職員室から参加となった、花鳥先生が勢いよく腕を振り下ろし、レシーバー達のブロックを抜けて強烈なレシーブが眼の前に飛び込んできた。
やばっ、と思い、腕を伸ばしボールを繋ぎとめようとしたが、すでに遅く、ボールは自分たち男性実習生の陣地の中で大きくバウンドしていった。
「23-24、女性陣リード!」
審判の声が体育館内に響き渡り、観客も大いに湧き上がった。
自分たちのプレー以上に盛り上がりを見せるバレーの試合に伊集院や小塚は動揺を隠せなかった。
「凄い盛り上がりようだな…これ」
小塚が上半身で息を大きくしながら呟いた。同じ男として同じチームになった訳だが、小塚も戸惑ってるようだ。
「ああ。俺、男子校だったけど、体育の試合なんて一部だけが盛り上がるだけだったし。女子高の体育試合ってこんなに・・・」
伊集院は体育館内で応援している女子生徒達を見渡した。
「こんなに賑やかなものなのか?女子高の体育って」
伊集院が日ごろの運動不足からぜぇぜぇと息をしながら呆けていると、敵側の陣地から声が聞こえてきた。
「そんなわけありませんよ。今日は皆さん、実習生がいるからですよ」
元教育実習生の花鳥先生だった。花鳥先生は女性陣チームだ。
「え、俺達?」
驚きの声をあげる小塚に花鳥先生は額に汗を流しながらも目線は華麗に、しかし穏やかに俺たちに諭してくれた。
「そうですよ。自分たち側が運動するのは普段の体育と変わらない。けれど、こうして自分たちよりも少し大人な実習生たちが試合を行うとならば、生徒も頑張って応援したくなるんですよ。それが、自分のクラスに配属された実習中の先生なら
そう言われて俺も気がついたのだが、確かにどこのクラスの生徒も自分のクラスの実習の先生を一生懸命応援していた。
そう言われると、体育館にいる生徒たちがあれほど熱狂的に応援しているのもわかった気がした。
「そうだったんですね」
「ええ。ですから、実習生の方達は今は純粋にクラス対抗の試合を楽しんでればいいんですよ。教員になったら、何回もクラス対抗なんて何回もありますからね。その予行練習ですよ。慣れる練習です」
「予行練習・・・・」
「確かにそうですね・・・」
花鳥先生の言うとうりだ。けれども、体育館には俺は慣れそうにもないことがただ一つだけあった。
それは・・・・・・。
「キャー!伊集院先生が、花鳥先生と話してる!!」
「伊集院先生、よその先生と喋るの禁止―――!!浮気だめ!絶対!」
大声の声の主は、自分たちのクラスの生徒達だった。
「ちがーう!!花鳥先生は俺たちの相談にのってくれてたの!」
教室とは違って、広い体育館の傍で応援で並んで立っている特別学級の生徒達に俺はつい大声で反論した。
「えー、相談なら私達が全力で回答しますー。」
「先生、疲れたら言ってね!スポーツドリンク、タオル、何でも準備してるから!!」
「ありがとう・・・・・。気持ちだけ受け取っておくよ」
俺は生徒達を直視できずにいた。
「私達さっきから超一生懸命応援してるのに、なんでさっきから眼を合わせてくれないんですかー?」
おれは生徒達と恥ずかしいやり取りに顔が朱くなっていくのを感じた。
(いや、それは君たちの、眼のやり場に困るんだよ!!)
俺が会話に集中できないのはたぶん・・・いや、確実に生徒達が着ている服装にあった。
俺はこれ以上特別学級の生徒達と議論に耐えられなくなっていた。
「じゃあ、質問なんだけどさ、どうして、皆そのコスチュームなの?みんなと違ってそれは体操服じゃないだろう?」
俺はもう思いっきって疑問をぶつけてみた。
生徒達は揃いも揃ってチアガールに扮していた。しかも似合ってるんだから更に困った。
上着は学校指定のジャージを着ており、下は見えそうで見えないほどのミニスカートを履いている。そして身の清らかさを示すかの様に薄白のスラッとした綺麗な生足があった。そして皆で揃えたのか髪は全員がポニーテール、更にはこれぞチアの象徴というべき大きなボンボンを両手に持っていた。
どこから見ても完璧なチアガールの服装だった。しかも可愛い子が揃っているだけに、ほんとに絵にかいたような完璧なチアガールだった。
「可愛いでしょ!先生のために頑張って揃えたんだよ!」
「私達、頑張って応援してますから!」
ボンボンを両手に持って真摯に言う生徒達。頑張って、と他の生徒達から応援の声も挙がっていった。
これで嬉しくない男はいなかった。
「わかった。じゃあ、せめて他のクラスの生徒達に邪魔にならない様に応援してね」
そう言って背を向けるのが精一杯だ。とても応援してくれてるお礼なんて言えやしなかった。
大勢の人がいる前で自分のにやけ顔を抑えるのに必死だったから。
(頼むから、公衆(?)の面前でそんな可愛い事言わんでくれ――――!!)
「いやあ、伊集院先生モテますねぇ」
小塚が後ろから言いながら腕を回してきて、そのまま首を絞めるのに、俺は三秒で「ギブ!ちょっ、タンマ!小塚!!」とギブアップしていた。
ニヤニヤしながらプロレス技を決めてきた小塚の攻撃から脱した俺は咳をしていると、今度は花鳥先生の番だった。
「伊集院先生、なかなかやりますねぇ。ここまでうちのうちの生徒達から応援されるなんて」
敵陣側の花鳥先生はいつも通りの笑顔で、小塚と同じく俺を見ながらにやけている。俺の嬉しさが手に取るようにわかるという口ぶりだ。
「私もうかうかしてられませんね」そう言ってレシーブするためにネットから離れていった。
そして俺はこの花鳥先生の言葉の意味を知ることになる。
今日一番の強烈なサーブを顔面に受けることによって・・・・。
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