第8話 彼女達の目的
♢
こうして、午前のゲームを終えた彼女達は、専属料理人たちが作った豪華絢爛な昼食を食べているのだが、彼女たちは食事よりも薔薇である教育実習生の伊集院先生の話題で持ちきりだった。
「何だって男の人って、自分のことあんまり話したがらないの?照れるばかりで、全然答えてくれない。ほんと理解できないわ」と、嘆くのは麗奈だった。
「女はお喋りの延長戦でいろいろ話しちゃうもんね。まあ、私達が初めての顔合わせ同士でアッチが人見知りの可能性もあるけど」
アッチとはもちろん、伊集院薫、薔薇のことである。
「そう嘆く割には麗奈、ずいぶんと積極的だったじゃない。伊集院先生に最初に抱きつこうとしたのは麗奈だったし」
「涼、それは当たり前でしょ?だって、そうでもしなきゃ、学校の成績、評価に関わるんだから。それに、ゲーム期間中に張り巡らされた監視カメラ、盗聴器でゲームを見守っている先生方に見せつけなきゃ、どうやって高評価得るっていうの?」
一時限の授業で渡辺先生はこのゲームの説明を行ったのだが、このゲームの評価は生徒の行動、つまり積極性などもチェックしていると話していた。そして、ゲームの順位や成績が学校の成績にもなるということだった。
そのことを聞いた彼女たちは、学校の成績となるならばと、このゲームに俄然やる気になったのだった。
「そういえば、渡辺先生が最後に言ってた新しい手法って何かしら?」
実は渡辺先生は説明の際に、言っていた言葉がある。
『毎年新しい手法を取り入れてますから、以前のゲームに参加したことがある三年生はルールに注意して下さい』と、言っていたのだ。
「ゲームのRPGみたいに、裏で入手できるポイント制度かしら?」
「さあ?渡辺先生に聞いても秘密って言うし、私はとにかくゲームに勝てるなら何でもいいわ。皆はLPOSに、伊集院先生の基礎情報、登録した?」
そう言って、藤原麗奈はテーブルに置いていたLPOSを起動させていた。
麗奈が言う基礎情報とは、午前中に伊集院先生の袖やシャツを掴み、質問攻めにしたときに得られた情報、荒業で取得した個人情報のことである。
「はい。登録完了済みです。」そう言ってLOPSの登録画面を見せたのは美咲だった。
「そっこーでLOPSに登録したよ」
「もちろん登録済みですわ」
「もっちー。既に登録済みだよ。ついでに基礎情報からSNSに登録してないか一斉検索済み!」
SNS検索アプリというものがあり、個人の名前を記入するとペンネームを使用しててもロックしていなければその人がどのSNSにいるかわかるアプリがあった。
「綾・・カワイイ顔してホント行動が早いわね。」
呆れながらに麗奈が呟く。
こうして、特別学級五人全員が伊集院薫をLOPSに登録していたのだが、当の本人は知らずにロッカールームで平和に食事を取っていたのであった。
「どんなSNSに入ってた?」
「それが、私達が質問して先生が言ってたとうり、どのSNSにも入ってないみたい」
「え?伊集院先生、Faceb〇ookも〇witterもしてないの?なら、〇OUTUBEとかは?」
この時代にSNSに入っていない人間は珍しかった。家や学校、行政機関も電子機器に溢れ、サービスをSNS のフォローワー数によっては料金の値引きができるため、お小遣いの中から工面する学生にとってはありがたい制度でもあり、この制度で爆発的にSNS加入者が増えていた。
「嘘でしょ、本当にSNS、どれも入ってない・・。あったら、伊集院先生の思考がわかって攻めやすかったのに・・・」
綾の言葉で検索をかけてみた涼が愕然とした表情でLOPSを見つめていた。
「SNSに入ってない伊集院先生って、どんな暮らししてんのかしら?」
「それよりも、どうする?SNSで人の思考って一番わかりやすいんでしょ?これじゃあ、相手の好みに合わせた攻め方できないじゃない」
彼女達は想定外のことに思案を重ねていった。
「教育実習生はSNSをゲーム期間中は退会させられてるんじゃ・・・・」
「過去にもあったらしいけど、その
美咲の言葉にすぐ反応したのは麗奈だった。
「相手の思考や性格は、時間はかかるけど、後でわかることよ。ただ、実習生の外面そとずらが剥がれて性格や思考がわかった途端に、生徒同士が先生を巡って修羅場化するから、それは中止になったはずよ」
「・・・・麗奈、それ、だれ情報?」
「先輩。元特別学級の」
「ななるほどね・・・」
これ以上にない信頼ある情報源だった。
「とりあえず、伊集院薫先生、二十一歳、小学生の頃は地元の学校に入学。高校受験で地元の○○男子一貫校に入学。経歴がめちゃめちゃ普通ですね」
セリーヌが基礎情報を見ながらデザートを食べ終わっていた。
「今年も難関な感じね。薔薇候補生は選りすぐりの人材、恋に落ちにくい人材から選ばれるって噂、アレ、ホントかもね」
「納得してる場合じゃないよー、涼。これじゃあ、勝利者だけが与えられる特典がパアよ!パア!!」
このゲームの優勝者には、まず特典として多額の賞金が授与されることが約束されていた。その賞金は自己研鑽のためであった。だが、お嬢様学校の特別学級の生徒からしたらおつまみ程度。彼女たちの、本命の特典は他にあった。
「麗奈、なんでそんなにやる気なのよ・・・?」
「私の目標は、このゲームの特典をフル活用して世界という国際で活躍するのよ!!日本じゃ狭いのよ、私には!」
「藤原先輩、燃えてますね・・・」
「燃え過ぎよ、あれは。まあ、元気になったのは良いことだけどね」
涼が最後に押尾を小さくして言った。
「じゃあ、麗奈は明日からその派手な格好とか止めるの?」
ミーシャがデザートのケーキに専用のフォークで切り分けながら聞いてきた。
「ええ、もちろんよ。好みが合いそうな実習生だったら良かったんだけど、なんか伊集院先生って、大人しそうな子が好きそうなだし、得点のためなら、外見を変えるしかないし!」
「そこまでして頑張るのは凄いわ・・・まあ、私も、頑張りますか」
「私も恋の練習として頑張ります」
「私もー。いい人と結婚したいもんね」
「私は恋愛には興味があるので・・・」
昼食を食べながら
「じゃあ、第二ラウンド、お互い敵同士頑張るわよ!そして、絶対に薔薇を恋に落とさせるのよ!!」
♢
『ゲームのルール』
特別学級の生徒は薔薇の実習生を恋に落とさせること。
禁止事項2つを除き、いかなる戦法も許される。
3週間だけ至る所に教室、廊下まで盗聴器、監視カメラが設置されている。
ゲームの特典が二つある。
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